無理の探求
この世の中には無理や不可能がたくさんあるけれど、実感を伴う事はなかった。
無理や不可能というものは、指定された条件下において目的を達成しようという時に初めて出現する現象だ。
僕達CBにそれはない。ほぼ無限とも言える時間といくらでも変更できる機能。この二つが、どんな難問にでも解決可能な性能を僕達に約束していたから。
そんな僕達に無理や不可能を突きつける「条件」とは、どのようにして生まれるものだろう。
普通、それは出自が決める。
どのような種族に生まれたのか。
どのような性別に生まれたのか。
普通、それは状況が決める。
どのような環境に生きているか。
どのような関係に生きているか。
どのような時代に生きているか。
どのような土地に生きているか。
なるほど、条件には様々なものがあるのだろう。
けれど僕達の時間と機能はあらゆる状況をクリアしうる。したがって、
「わたし達の目的には、そもそも難易度なんて存在しないのよ」
「それは楽観が過ぎると思うけど、まあ、いいや。やるって言うなら手伝うよ」
島の森にある村の一角。すでに死んだ小さな竜のコクピットから、彼女が顔を出してきた。片眉を持ち上げた、驚きつつもいぶかしむようなこちらに対する不信感が如実に伝わる表情だった。失敬な。
いや、実に正しい認識だけど。
「何企んでるの?」
「何も企んでないよ。まだ」
「……」
「ただ、これから企む事がいくつか出てきそうだなって。……ほら、大体僕達に問題はなくてもさ、状況は早くも決まってきてる。十年で解決しなきゃこの島は沈んじゃうわけでしょう? それまでに竜の建造、できるの?」
「できるものを作ることになるんでしょうね」
「手は足りないよ、たぶん」
「まあね」
「どうするの?」
「どうにかしたいの?」
僕は笑った。彼女は目を見開く。
「どうにかしてみるのって、楽しそうだから」
「あんたの口から楽しそうなんて言葉がでるとはねえ。世も末かな」
「あと十年でこの島は沈むらしいからね。いいんじゃない、末で」
「はいはい。ああ……あんたの黒猫はどうなの?」
「僕が何かするなら関わってくると思うよ」
ただし、黒猫は僕が面白がる事を最優先するからなあ。もしかしたら、親切心で罠を仕掛けてくるかもしれない。そうなったらシグレにしっぽを捕まれてぶん回されるのは間違いない。
言わないで置くことにした。トラブルもシグレの癇癪も黒猫のぎにゃーという鳴き声もきっと僕は楽しめる。
「あー。僕って性格悪いのかな」
「いいじゃない。性格があるのかどうかもわからなかった時より、ずっと好感が持てるしね」
シグレは再びコクピットに潜っていった。




