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海里の果て  作者: 黒霧
竜の苗床
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アルタールの竜

 崖が割れた。地面以下から鉄の塊に突き上げられて吹き飛ばされた絶壁はそれは見事な噴火模様。がらがら降り注ぐが瓦礫の雨は廃墟の町で飛び跳ねてお祭り騒ぎを巻き起こす。それはさながら、世界の終わりを迎えたような……あるいは、ずっとずっと待っていたお祭りが始まったような、騒々しさだった。


「うわぁ。シグレ、何やったの?」

「わたしのせいか。ほー、わたしのせいですかっ」

「あ、調子戻ってきたね」


 髪を引っ張られながら僕は笑う。何か悩みを抱えていたようだけど、吹っ切れたみたいだ。それはいい。まあ、今後もへこむ度に何かを盛大に吹き飛ばさないといけないのかな、という不安は少なからずあるけれど。


 ……うん。そうなったら、そうなったで。多少どころでないスパイスも生きる上で必要だ。たまには入れすぎた七味にむせて涙ぐむような事があってもいい。


 落ちてきた瓦礫の破片を手の甲ではじく。ようやく大災害も収束し、狂騒の名残が森に響くていどに落ち着いてきた。すると、崖の下から現れたものにも目を向けようと言う気にもなる。


 槍の穂先じみた頭部はまっすぐこちらを向いている。首太い首はがっしりとした肩へ接続され、丸く膨らんだ胴体からは一対の翼が天を覆わんばかりに広がっている。よく見れば、骨格だけが鋼でできていて、目をすがめるような青さの皮膜は吹き出すように広がった光である事に気づくだろう。がっしりと大地を掴む太い爪。二本足から後ろへ延びた胴体の果て、収束した尻尾はぴんとまっすぐ延びて、大地に触れない。


 かくしてそこに現れたのは、銀色の装甲もまぶしい一頭の竜だった。


「エーギル級だね」


 いつの間にか足下にすりよってきていた黒猫は、竜を見上げていた。


「大きいの?」

「エーギルの大きさは十メートルから二百メートルはあるよ。ま、こいつは小さいが」

「この島には竜なんて一頭もいなかったのにね」シグレが言った。「なんなんだろ、こいつ」


「あら。なかなか人間的なのね、あなた達」


 竜は顎を開くと、目をチカチカ光らせた。笑っているように見えないこともない。


「結果は上々ね。ちゃんとできる子もいるんじゃない」

「何の話よ」

「つれない子。あなたの声をきいてやってきたのに」

「お呼びじゃないわよ」

「そうでもないわ。あなたに作ってもらいたいものがあるの」


 ぴくり。シグレの横顔が変わる。

 黙って睨みあう二人を眺めていると、隣にやってくる姿があった。門番だ。


「あいつはぁ……なんだ」

「あなたが仕込んだものじゃないの?」

「この島に竜はいない。必要ないからな」門番は言った。「いるとは思ってなかった」

「実際、いないのよ。わたしは例外ね」竜は言う。「ずっと昔、死ぬ前に意識モデルと仮装記憶から成形されたアルタールもどきだもの」

「アルタール? 最後の人間?」


 僕の問いに、アルタールはくすくすと笑った。


「わたし程度の奇特者ならそこらにはいて捨てるほどいたわよ。だからきっと、最後ではないわね」

「他にも人間がいるんですか」

「いてもおかしくないわ。あなた達は、とっくの昔にいないって決めつけてるようだけど……。まあ、こんな時代になってしまってはね。自業自得とはいえ、姿を現しにくいのは当然でしょう?」


 アルタールはぎしぎしと体を軋ませた。頭部ハッチが、土をぱらぱらと落としながら後頭部へとスライドしていく。そこには空っぽのコクピットがある。


「とはいえ。わたしはもう限界よ。全く整備していなかったし、この体も、実はぼろぼろなの。システムも時限式で、四百年で揮発するスケジュールになっていた。最近はちょっと焦っていたけど、これでようやく、わたしも役目を果たせるわ」


 それはアルタールの言葉ではなく。

 アルタールのふりだと自覚した、CBの言葉だった。


「さあ。おじょうさん。わたしに乗りなさい。伝えなくてはならないことがあるの」

「それ、わたしに選択権あるの?」


 この期に及んで顔をしかめるシグレ。門番があり得ないものを見る目をむけた。そのとなりで、見事だ、と黒猫は髭を震わせる。僕も同感だった。

 このくらい意固地でなくては、らしくない。たかだか人類の模造品が現れたところで、そのありようが変わるのなら、CBはここまでひねくれなかった。


「勿論あるわ」アルタールは言った。「けれど、きっと知りたくなると思うわよ。この島には竜がいないでしょう? それはわたしが作らせないように仕組んだから。……つまりね、わたしは竜の作り方を知ってるの」

「わたしに作れっての?」

「あなたに作れるかは知らないわ」


 アルタールは笑う。からかうように。


「でも、やってない? まだ誰も作ったことのないものを、作ってみない?」


 僕は吹き出すのを必死にこらえた。……こんな事を言われた彼女がどんな顔をするか、のぞき込むまでもない。

 その期待を裏切らず。彼女はあくまで上から目線で、こう言った。


「はっ。確かにそりゃ、興味もってあげてもいいわね」


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