夢の果て(真)
駄菓子屋じみた廃屋で、わたしと門番は話していた。
「嬢ちゃん、整備士だったのか」
「もちよ。わたしの手に掛かれば人型機動兵器だろうと宇宙戦艦だろうちょちょいのちょいよ」
「作ったことないんだな」
「作ってみようかしら……」
唇に手を当てて考え込んでいると、門番はやれやれと首を振った。
「やめとけ。無駄なもん作ってもしょうがねぇ」
門番を見る。癖の無い、力の無い、光の無い顔だ。こういう顔を、いくつも見てきた。かつてのあいつもそうだった。
「何をする」
「べっつにー」
頬から手を離して、ため息をつく。あぐらを組んだ膝の上に肘をおいて、背を曲げるように頬杖をついた。
「でも、やる前から無駄って言われるのはおもしろくない」
「やった後だから無駄っていえることもあるんだよ」
「……。あなたがこの村を?」
「俺が、って訳じゃねえけどな。暇な奴らで集まって、でっかい墓碑を作ろうとしたんだよ。村っぽくなってんのは、ま、人間にはその方がいいかと思ってな。どうせ死んじゃいるんだが」
門番は苦々しく眉をひそめた。口調が変わっていない割に、心境は複雑なのかもしれない。知ったことではないが。
「アルタールには会ったことあるの?」
「あるぞ。おかしな奴だった」
「どんな風に?」
「どんなと言われてもな。……そもそも生きてる理由がよくわからん。しかもサイボーグ化の上、脳改造までして延命処置をしてだ。知ってるか? この島を作ったのもあいつなんだ」
「知らなかった。作ったって?」
「海流の収束点を見つけてな。そこに巨大構造物をおいて、資源回収用CBを配置してな……。昔は何隻もの船がいっては帰りの繰り返しだ。土も浄化して、草木が生き返るようにプラントをひっぱってきたりな」
門番はため息をついた。懐かしそうに細めた目が、足下を向く。
「なんでこんなことしてんだよって、思ったもんだ」
「答えはわかったの?」
「わからん。真似をしてみもしたが、いまいちな」
「ふぅん」
つまり。知りたくはあったのだ。彼は。
「なんで放置したの?」
「知らなくたって、何も変わらない」
そして、わからないことに理由を付けて、諦めた。
「知ったら何か変わるかもしれないのに?」
「何が変わる」門番は笑った。「変わってどうする」
「変わることが目的なのに、変わった後に思いを馳せてなんになるのよ。ばーかっ!」
地をけり付けるように立ち上がる。啖呵切った勢いに押されて、足が前に進み出す。
背中に筋が入ったように。意識が加熱したように。胸の奥で破裂しそうになった衝動を、走りながら叫びあげた。
「ばーか、ばーかっ。知るかそんなこと。知るか未来なんてっ。過去の誰が何を思ってたかなんてどうだっていいわっ。未来にどうなってしまうかなんて輪をかけてどうだっていいわっ。わたしは、わたしは……っ!」
走り、走り、走り続けて。
息が切れるような、肺の酸素がすべてつきるような、電力がすべて放出されたような、体中のねじがはじけ飛ぶような。
一蹴りで、飛ぶ。
「何でもかんでも作りまくるだけよっ!」
そして、石碑に強く、拳をたたきつけた。
盛大に巻きあがる土煙。引きわたる轟音。森から飛び立つ鳥。走り出す獣。
次の瞬間。正面の崖が、轟音をたてて崩壊し……
そこに、巨大な空洞が深い穴を晒している――。




