巡礼過程
ここにも墓碑があった。
最後の人類。アルタールを想って作られた、無数のお墓。海流に流されて寄り添ったモノたちが集うこの島には、彼女の名残が無数にある。
アルタールの正体は実はよくわかっていない。誰も知らないうちに、気づいたらこの島にいたのだ。彼女は箱船作戦についていかなかった人類という話もあれば、その子孫だという話もあるし、海底でまだ生きていたプラントから、クローン計画の残り香が立ち上ったというはなしもあった。
とはいえ。けれども。
無数のお墓を巡礼して、わたしは思う。
こんなにも思われて、こんなにも思われ続けている、最後の人類。
彼女はなにをしたくて、死ぬまで生きていたんだろう……。
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「なんてことをさー、考えてるわけですがー」
わたしはぺたりと地面に座り込んだ。肩を落とし、頭を垂れ、溜息をつく。
この村に来て四日目になる。あいつは子供型のCBにやたら人気で、今日も首を絞められたり屋根から飛び降りたり大変そうだ。黒猫がおこるんじゃ、と思ってみれば、彼女は彼女でおもしろそうに眺めて髭をふるわせるばかり。
それでいいのと聞いてみたことがある。すると黒猫は、
「わたしゃあね、あいつがおもしろおかしくやってりゃいいのさ。ほかは全部おまけだよ」
などと言ったのだ。
「……驚いた。あれだけ死ぬ死ぬ言ってたのに、ずいぶん前向きになったのね」
「どうだかね」黒猫は尻尾を揺らした。「わたしには依存先が変わったようにしか思えないよ。前向きになったのか、後ろ向きのままなのか、よくわからんね」
「少なくとも、何かしようとしてる分、前向きじゃない?」
「前向きであることに価値なんかないよ。ただ前向きである必要が時々あるだけだ」
「……それは?」
「あいつは気分屋だからね。前向きにトラブルに首を突っ込まないと、楽しませることも難しい」
とりあえずわかったのは、黒猫がかなりらぶってるってことだけだ。座布団全部持っていってしまえ。
「はぁ。どうしたもんかなぁ」
空を見上げても、曇天に答えが書き込まれていたりはしない。いくら見ても穴をあけることもできない。
何かを作るというのがわたしの行動原理だ。作り続けなくては、わたしではなくなる。けれど今は作るモノがない。直すことで行動原理の代用としていたけど、あいつも、黒猫も、今ではすっかり私の手を放れてる。
元々、ほんの少しだってわたしの手の内にいたことなんてなかったけど。
それはいい。作るというのはそういうことだ。直すというのはそういうものだ。手をつけたモノは、手から放れていく。手から放れていくようにするために手をつける。それが作り手のありようだ。
それは胸の内に風が吹くような孤独感があるけれど、でもその中心には小さいけれど堅くてはっきりとした核のようなものがある。それが自分という存在だ。
けれど今は、それがはっきりとつかめない。なにを作ろうか、迷ってしまっているから。
「……そもそも不毛と言えば不毛なのよね」
もう誰も、何かを作ってほしいなんて望んでいない。
もう誰も、放り出されたいなんて思っていない。
誰彼も、ここにいるのは、望まれなくなって、放り出されたやつばかり。
それが悪いとは思わないけれど。
……なんとなく。胸の奥に引っかかる。そうじゃないって、言っている。
だから歩いている。探している。けれどやっぱり見つからない。
アルタールの問いには答えられない。なすべき思いが定まらないから。
「あーもうっ」
背中から地面に倒れ込んだ。背中が堅い地面に突き返されて、ごつごつとした感触に痛みが走る。なにも、こんなところまで精巧に作り上げなくてもよかろうにと、人類をちょっとだけ恨んでみた。
「……なにやってんだ」
「あれ。門番さん?」
そこに、村の入り口にいた男が立っていた。




