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海里の果て  作者: 黒霧
竜の苗床
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見果てぬ地平

 アルタールの墓碑は島にいくつかある。一人の人間の墓碑なのにいくつもあるとはこれいかに、という疑問の回答は簡潔だ。彼女の死を思いたがったモノたちが、こぞってそれぞれに作ってしまったのだ。


 実は僕も一つ、作ったことがある。この島で自主的に行った活動としては初めてのものだった。もっとも、会ったこともない人間の墓を作るというのはどういう心境で行うべきか、なかなか困ったモノだったけど。


 最後には。仮にも僕を作った人なのだからと、そういう理由で納得させた。


「夜になっちゃったねえ」

「ああ。あんたには退屈かい?」


「……ん、そうでもないよ」


 背中にはべたーと張り付いてきた少女。左側からは寄りかかってくる少年。膝は黒猫に占領され、あいているのは右手だけ。僕はずいぶん重たいモノを背負ってしまったのだな、なんて冗談を口にしようものならぶっ飛ばされそうだ。


 村の一角にある、廃材仕立ての家屋の中だ。とってつけたような棚やらベッドやらに囲まれた部屋は狭く、細かい廃材を持ち込んでいるのかそこら中にいろんなものが転がっている。目覚まし時計なんて、いつの時代の代物だろう。


「シグレはまだお墓?」

「気になるかい」


 シグレは墓の前でぼっと立ったまま、微動だにしなかった。しまいには飽きて放置してきたけど、なにを考えているんだろうか。


 ……何を作ろうか、というのが彼女の問いだった。


 それにぴったりはまる問いかけがここにはあった。


「あれは昔からああだったの?」

「たぶんね。わたしがくる前は知らないよ」


 子供たちの話では、最後の人類アルタールの死後に作られたものだと分かっている。墓碑の言葉も、そのときアルタールが遺した言葉らしい。


 それがすべて本当なら。アルタールとは、なんてひねくれた人間だろう。


 CBは望みを示さない。目的はハードに、行動原理はソフトに与えられる。それに則って機能するだけの存在に、望みを抱けとはどういうつもりか。


 ……その問いの奇妙さを自覚していたから、終わらぬことを選ぶなら、などと付け加えていたのだろう。


「竜へ至り、とあったけど。竜って至れるものなの?」

「まさか。竜ってのは竜として生まれるもんだ。わたしらと同じさ。ハードに従って、ソフトは生まれるんだよ。竜として体を持たなけりゃそうはならん」

「じゃあ、竜のハードに移せば変わるのかな」

「変わらなけりゃ、機能しないだけさね。けど変わったら、もうあんたじゃないだろうね」


 黒猫は尻尾をふる。ふむ、と僕は顎をかく。


 CBはハードがその存在意義と同義である。掃除機がゴミ処理のために作られたように、その機能とはハードウェアによって担保され、その機能とは存在意義そのものだ。人間のような曖昧さは、介入する余地はない。

 そして仮想人格とは、複雑な系を最適に制御するための自己成長型プログラムだ。人格の形はハードと実運用環境に最適化される。


 だから黒猫の言うとおりで、竜に至るなどというものはなく、竜ならぱ竜として生まれるはずだ。


 けれどアルタールは至ると書いた。その意味するところは……。


「…………ふむ」


 顎をかく手を止める。


 答えは明らかだ。至るとは変われというものではない。


「作れってことだよね」


 けれど竜を作る理由とは?

 ……それこそ、望みを示し、という一節に答えられなければ分からないことなのかもしれなかった。


「ねえ」

「なんだい」

「なんでこの村は生まれたんだろうね」

「さあね」


 寂れた村。子供だけが外にでる村。からかえば反応するけど、それ以外のすべては時間が止まったような土地。


 何か、そのあたりに、ヒントがある気がするんだけどなぁ。



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