いにしえのこえ
「……鬼はつらいなぁ」
「へたれー」
少女が横でにまにま笑う。真っ先に捕まっておいて偉そうだ。
「いったい何故こんなことになってしまったのだろう」
「お兄さん、バグった?」
「うーん。最近を振り返るにバグる機会は結構あったかも」
下半身吹き飛ばされたり。港で魔物に追われたり。そもそも駅長プレイをしていたのにそれをやめたあたりからして自分の存在理由はわりと消えている。
未だ眠っていないのは、バグなのかもしれない。
「まあバグだからって責められるモノじゃないんだけどねぇ」
「何それ。バグっていたら直さないといけないのよ?」
「そうでもないよ。バグを利用して生かす方法もあるからね」
黒猫とか、わりと裏技を使ったからなあ。
けれどそう言うと、少女はさらに怪訝そうにする。
「バグがあるのに生きなくてはならないの?」
「順序の違いだね」
生きているからバグと折り合うか。バグがないから存在してもいいのか。
「バグは必ずしも問題ではないと思うよ。まあ、道具としては失格なんだろうけどね」
使い手からすれば問題かもしれないけど、そういう形として存在してしまった側にバグなのだから滅びろという理屈は通じない。CBにも特別な理由がない限り生存を優先するオーダーがあるのだ。
「……ふうん。そっか」
納得しているのかしていないのか、少女は唇に指を当てた。上を見て、何か考えるようにしばし沈黙する。
「じゃあ、こっちきて」
「どこ?」
「こっち」
少女が歩き出す。村の奥に向かって。
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アルタールの墓碑。
最後の人類が死ぬ前に作るように指示したという黒い石造りの石碑らしい。それは村の最奥、横たわった鋼色の鉄塊の手前に設置されていた。周囲はきれいに手入れされているようで、そこら中が草で覆われているにも関わらず適度な高さに整えられ、様々な色の花が散らした宝石のように広がっていた。
「ここの手入れをしてるのは誰?」
「わからないわ。手の空いてるCBが交代でやってるだけだから」
「あ。ようやく来たし」
「おそいのぉ」
墓碑の前ではシグレと黒猫が待っていた。はじめからここを目指していたのだろう。
「というか、置いていきながら遅いってさぁ」
「ついてこいで起きながら文句言わない」
「えー」
「何よ」
そこはかとなく理不尽を感じていると、黒猫が足下にすりよってきた。そして足にしっぽを絡めてくる。
「動けないんだけど」
「気にするな」
「ここは?」無視して少女に尋ねた。
「墓碑よ。最後の人類が死後に残すように言ったの」
「触ってもいい?」
「好きにしたら?」
なんでわたしの聞くのよ、という感じの顔だった。なかなか気むずかしいお嬢さんである。
草を踏んで墓碑に近づく。墓碑はきれいに磨かれている。表面には深く刻まれた文字。どうせCBしか読まないのならプログラミング言語で書いて欲しかった、と思いながら目を通す。
”眠れぬモノたちへ。
終わらぬことを選ぶなら、
望みを示し、
竜へ至り、
思うがままをなしなさい。
最後の人類より”
「ふむ……」
何故もっと分かりやすく書かなかったのか。とりあえずアルタールという人への不信感を募らせつつも、興味深いキーワードを見つける。
「竜、か」
海岸の仙人を思い浮かべつつ、僕は墓碑から一歩離れる。
「どういう意味だかわかる?」
「どうでもいいこった」黒猫が答える。
「シグレは?」
……返事はこない。
シグレはじっと、墓碑を見ていた。




