夢の果て(偽)
上方から見下ろした時にはもっと廃墟然としているかと思えば、実際に降りてみればそれほどでもない。道はきれいに整えられ、左右に並ぶ建物だけが余りに不揃いで、何かの民族衣装のようにカラフルだ。これはなかなか、見応えがある。
……よく見てると、廃材ばかり、というわけでもないようだ。一部には木の柱もあるし、その上に、カーブを描いた鋼色の装甲を乗せていたり、切り出し素材をそのままおいていたり、その前後に金網をしいて蔦を絡ませ、壁にしていたり。時々、太陽パネル代わりのテントウムシ型CBみっしとくっついて赤と黒のまだら模様の壁を作っていたり。
周りを見回す。……どうも、商店ばかりのようだ。そういえば、左右に立ち並ぶ建物や、道の雰囲気も、どことなく商店街臭い。屋根があれば完璧だろう。
「まあ、もっと巨大な問題があるわけだけど」
足を止める。辺りを見回す。
誰もいない。音もしない。
……村、ねえ。
「ふぅむ」
予感とは常に嫌なものかもしれない。黒猫の意味深な態度を思い出す。彼女が率先してつれていく先は常に何かしらのトラブルを抱えている可能性がある、と脳裏のシステムが警戒を発した。
まあ、トラブルとはいい暇つぶしの種でもある。
彼女の場合、それを捜し求める癖があるだけだ。
……僕なら、トラブルを作るけどなあ。
こればっかりは趣味の違いだろうか。
「む。あんた誰っ!?」
「よばれてとびでてー。……なんだっけ。よく知らないネタを使うものじゃないね」
ぼけるのをやめて振り返る。すると、冷凍ものをつっこんでおくケースの横に、小さな女の子が立っていた。きついつり目が僕を睨んでいた。
「ちょっと世界征服をもくろんでて、まずはこの村の視察にきたんだよ」
「はあ? バグった? どうかした?」
少女は怪訝そうにしながら下からのぞき込んでくる。服のサイズが合ってないなーと、胸のあたりから目をそらした。
「昔からね、世界征服というのは一つの町や村から始まると相場が決まってるんだよ。で、なぜか邪魔物が出てきて、戦力誘因されて、消耗戦になるんだよね」
「効率が悪いわね」
「でもよそを支配地域にしても結局管理維持するのは大変なんだろうなぁ」
「ふぅん……」
腕組みしていた少女は、はたと顔を上げた。
「って何の話よっ!」
「管理維持? この村、結構寂れてるよね。みんな起きてる?」
「うっさいし。あんたなんかに誰が答えるか。べー」
素早く手を伸ばした。舌を摘んで固定。
少女が、獲物と間違って木の枝に舌を巻き付かせてしまったカメレオンみたいに固まった。
「ふぁひをふる!」
「この状態で抗議とは、なかなか根性がすわってますな」
元気がいいのはいいことだ。いいことなので、一度強くひっぱって「ぎゃっ!」と言わせてから解放してあげた。
少女が口を押さえてうーうーうなっていると、それにつられてそろそろとCB達が姿を現し始めた。いずれも子供くらいの大きさだ。僕の腰から胸くらいの背丈しかなく、遠巻きに、おどおどとこちらをみている。
余所者への警戒心が空気にひりひりととけ込んで、実に村っぽい空気を作っていた。……村って、そういうものなんだっけ?
「おじいさんは山に熊退治に、おばあさんは川へ大漁旗を掲げに、だっけ。……大人型のCBがいないね。それとも大型動物がいたの?」
「あ? なに? あんたここに興味あるの?」
「何を隠そう、世界征服をもくろんでいるからね。実地で見聞を深めるのは大事なことなのだよ」
だんだんひっこみつかなくなってきたなあ。そう思ってると、子供たちがざわついた。「世界征服って?」「てか世界ってどこからどこまでだよ」「征服してどうするの?」「わかんねー」「暇なんじゃない」「仮想人格に昔のアニメのキャラをつっこんだとか。あるらしいよ」うーむ、なかなかに素直な子達だ。子供なので許す。
あ。割と子供は好きなのかな。そんなことを考えてると、少年がとことこと前にでてきた。
「えっと、大人たちは、店の中に居ますよ」
「君たちは何してるの?」
「えーっと……遊んでます」
「かくれんぼでもしてたの?」
「え?」
「いや。じゃ、鬼ごっこでもしようか」
「は?」
「僕が捕まったら舌を抜きまーす! あ、じゅー、きゅー、はー」
子供たちが逃げ出した。
早いなと思いながら、僕は空を見上げた。分厚い雲が高速に左へと流されている……。
早めにやっつけた方がいいな。
僕は追いかけながらカウントダウンを続けた。悲鳴が大きくなる。




