残滓残葉
森の向こうには村があった。
小さな村だ。窪地にみっしりと詰まっている村は廃材を汲み上げてなんとか作り出したといった風情で、道はむき出しの土であり、家の大きさはばらつき、屋根もでこぼこしている。元々が廃材置き場だったことが、錆付いた色合いから伺えた。
「うわぁ、うわぁ。ほんとにあったし! 馬鹿だ、馬鹿だっ。村なんてほんとに作ってたんだ。うっわぁー!」
「感動してるのか馬鹿にしてるのかどっちなんだい」
肩に上ってきた黒猫が、まんざらでもなさそうににゃあと鳴く。喉を掻いてやると心地よさ層に目を細めた。すりすりしてくる。……いやぁ、シグレがいると感想を考えないでよくて楽だ。
こういうことを言うだけで喜ぶんだなあ。今度から僕も言うかな。うわぁ。……うーん。いまいち、似合わないかなぁ。
「おまえはどうなんだい」
「ふぅむ」
素直な感想は、さぼるのは難しいなぁ、なんだけど。
「いつからこの村のことを知ってたの?」はぐらかした。
「ああ、昔散歩してるときにたまたまね。その頃にはできていたね。たぶん、雰囲気は変わっちゃいなかろうさ」
「ほほう」
「あんたの疑問の答えもここにあるんじゃないかい、シグレ」
「うん? どういうこと」
「行けばわかるよ、きっとね」
「台詞をとるんじゃないよ」
尻尾を首に巻かれた。首を絞められてるのか? ごしごしと鬱陶しい。
まあ息はしなくてもいいので、気にせず、丘を下り出す。森はもう終わりだ。
道程は楽ではなかった。斜面には腰あたりまで延びた草花に覆われている。最近の雨でやられたのか、土はぬかるんでいた。油断すれば滑って落ちてしまいそうな錯覚に陥る。
苦労して降りていく途中で道を見つけた。緩やかに蛇行した道は所々に木をいれて階段状にしてあった。木の角で泥を拭いつつ降りていく。ぬかるみよりは、歩きやすい。
道の果て、村の前には横倒しになった冷蔵庫に腰掛けている男がいた。坂を降りる途中から目が合っていた。僕が片手をあげると、男はこくりとうなずく。
「何してるの?」シグレが聞いた。
「門番さ」男は口をへの時に曲げる。「好きにしていきな」
「はぁい」
すたすたと歩いていくシグレ。黒猫がそれを追いかける。
僕はしばらく門番を見ていた。門番は眉をひそめて顎を持ち上げる。
「何だ」
「何してるの?」
「はぁ?」
「何かしてるの?」
「……」
「そういえば、港では魔物が出たんだよ。知ってる?」
「なんのこった」
「ただの事実?」
言い終えると、僕は村に入っていった。門番が訝しむようにじっとこちらを見ていた。




