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海里の果て  作者: 黒霧
竜の苗床
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未来未計

 今更だけど、彼女は整備士だ。

 この時代この島で整備士なんて、流行らないにもほどがある。生きることに努めるやつがことのほか少ないからだ。黒猫がそうだったように。

 そんな奇特な生き方をしている彼女の悩みには、多少なりとも興味があった。


「何か作りたいの?」

「んー。そうねえ。何かは作りたいけど、何を作りたいんだろ」


 首を傾げるシグレ。

 ……彼女の言い分は分かりやすい。この時代のCBの平均的な価値観ともいえる。

 何しろ人間のために生まれたのにその人間がこぞって姿を消している。おかげでここに居る連中は胸にぽっかり穴のあいたようなやつばかり。でも、目的を見失った僕達は、それでも作られた理由を忘れられず、その生き方しか続けられない。

 目的と手段の逆転。目的を無くしたから、手段に生き方が縛られている。


 とはいえ。


「君もそういう事悩むんだねぇ」


 回避運動。ぶおんと風を掻く右腕がのけぞった僕の鼻先をかすめていった。

 いくら直せるからと言って破壊行為に走ってはいけない。下半身を吹き飛ばされた思い出が意識をかすめる。


「何か作ればいいじゃない」僕は言った。「何か適当にスクラップ拾ってきて直すとかさ」

「単にいじくり回すだけの事を作るとは言わないのよ」

「そうなの?」

「そう。そういうのも、ありだとは思うけどさ。わたしの考える作るっていうのはそうじゃないの。何か作りたいものがあって、それを実現するのが、作る。有り合わせのものを寄せ集めてとりあえず組み立てるっていうのは、なんだろう、フランケンシュタインみたいな気味悪さがあるのよね」


 できるから作る、のではなく、作りたいものを作りたいという。

 けれど……。


「作りたいものがないなら無理っぽいね」

 シグレは難しい顔。

「本当は、あるんだと思う。だけど、それが何か、ちょっとわからない」

「ふぅん」


 頷きつつも、考える。

 それがあるという予感は、果たして事実なのか、それともあって欲しいという祈りなのか。

 後者だとしたら……救いが無いだろうなぁ。

 居なくなった人間を求めて、いつまでも彷徨っていたCBを知っているから。

 そう考えながら足下に目を向ける。黒猫は、やれやれといった風情で髭を震わせた。


「何か作ってどうしたいんだい、あんたは」


 黒猫は言った。顔は向けない。ただ声だけをよこしてくる。

 沈黙に、しゃくしゃくと小さな足が枯れ葉を踏みしめる音が混じる。


「……どうしたいか、ねぇ。うーん」


 彼女は首を傾げた。僕も首を傾げる。

 だって、そんなの明らかだ。


「次に何か作るか考えたいんじゃない?」

「……あんたはひね過ぎだよ」


 黒猫は溜息をつく。僕は反対へ首をひねる。

 けど、たぶん。

 何かをしたいと望んで、悩んで、迷って、苦しくて。その果てに何かを作って。また何かをしたいと望み。

 その繰り返しは、結構な幸福だと思うのだ。

 それをしたくて、やっているんだから。

 ……まあつまり、僕には彼女は不幸せには見えないんだよなぁ。なんて、思うわけだ。


 ひね過ぎという、黒猫の評価には理解の片鱗が伺える。つまり、お互い様なわけか。


 ああ。でも。

 電車に乗って旅をしていた、恋を探す彼女を思い出しながら、僕は言った。


「したいことがあるのに、それが何かわからないっていうのは苦しいかもね」


 その点だけは、共感出来たから。

 すると頃猫は、不思議そうにこちらを見上げてきた。


「あんたは何かしたいのかい?」

「今のところは特に……あ、目的地は? まだ?」

「ふん。もうそろそろだよ」

「おお。待ってました」


 思わず笑う。

 黒猫の案内する先。流れついたモノ達の集うこの島で唯一の生活圏。

 そこは、何を思ったか、CB達が自らの意志で作り上げた村だった。


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