モンスターハンター2
微睡みに溶けていた魔物の意識は、その一言で帰ってきた。
瞳はない。カメラの役目は自らが果たすものではない。だが盲目だから景色が捉えられないなどと思いこむのは機能を持つが故の傲慢だ。
風の異質を理解する。いびつになった体に巻き付く風の中には、確かに異常が紛れている。
なら、砕かないと。
自らの役目を思い出す。牙はぎりぎりと音を立てながらその巨体を跳ね上げた。
以上、突進してきた魔物の心境を適当に脚色してみました。我ながら余裕のある頭だことで、その楽天っぷりに目眩がする。
「よっと」
鉄屑の山を飛び越える。足下は不安定で着地もおぼつかないが、前方へ向かう意志が他のすべてを補っている。追いつかれる前にもう一歩。バランスを崩す前にもう一歩。転ぶ前にもう一歩。ただ前に進むと言うだけの、なんと気楽なことだろう。
そしてその後ろを、スクラップを跳ね上げながら追いかけてくる魔物が一頭。
その近くには、何か、見覚えのある姿もあった気がするけど僕の知ったことじゃない。何しろ追いかけられているまっただ中。しかも似擬切れなければ僕がスクラップ。ふざけてはいるけど結構緊急事態なのだ。
「――――――!」
魔物が吼える。暴風じみた爆音がびりびりと皮膚をふるわせる。
今ので詰めの代わりになるかと思ったけど、ここじゃあちょっと高さが足りない。
「ほ、よっと、」
加速をつける。頭に刻んだ座標までは残りおよそ百メートル。チューンされた今の足なら七秒きるくらいわけはない。
だが。追撃する魔物の速度はそれ以上の魔風だった。
「――――――!」
「あ、やば」
魔物の鼻先が五メートルの距離で踊っている。ひっかけられたが最後、精密なマニピュレータのごとくこちらの体を顎までひきずり、僕は粉々になるだろう。
だがこれ以上の加速はあり得ない。すでにスペック上の限界なのだ。足は熱を帯びて赤く回路も焼き付く寸前だ。脚部間接も想定外の蛮用に悲鳴のコーラスをあげている。
間に合うか。追いつかれるか。
ぞくりと背筋が冷える錯覚。
最後の一秒。壊れることを前提にした急場しのぎの高速脚が、音を立てて――
「ぎゃー!」
爆発した。
聞いてない。これは聞いてない。くるくる空を吹っ飛びながら、僕は叫んだ。
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「なにをするかー!」
「あいつのことだから無茶するってわかってたしねー。これくらい派手にしなきゃつまらないでしょ」
黒猫にかみつかれながらわたしは答え、そして、とどめの一撃をさす。
「ぽちっとね」
音は口だけ。コントロールルームで監視していたわたしは、一つのプログラムを走らせる。
あいつらを助けるのに使ったのと同じ、コンテナ輸送に利用する輸送用回転式道路を起動した。
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スクラップはかき回されて土台を失い、大地は液状化現象を起こす。
あとはごらんの通り。蟻地獄にとらわれた魔物は、もがきながらも大質量のスクラップに押さえ込まれて身動き一つとれなくなった。




