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海里の果て  作者: 黒霧
竜の苗床
19/57

竜の体

 雨が止んだ。まだ雲は空で蜷局を巻いていたが、つい先刻まで赤子のように騒いでいた灯台も今はこんこんと眠っている。


 朝か昼か、それとも夜か。竜の目たる仙人は絶対時間を凍結させている。その仕事は記憶の整理になく、そこに在るものを見ることのみ。考えることが必要ない以上、すべての映像は切れ目のない動画として成立する。


 ただし二度。その法則から逸脱したことがある。

 一度目は流れ着いた漂流者を釣り上げたとき。

 もう一度はついさきほど。本来、警告すべきところをたきつけるというエラーで応じたとき。


 原因は同じ。無いはずの意志が、無いはずの手を伸ばしたため。


 仙人は一人外に出た。針のない釣り竿も今はその手に握っていない。灰色の襤褸布を纏っただけで、彼は外に踏み出した。


/*/


 港湾を北に進み、粉砕されたスクラップの丘を踏みし抱く。ぐしゃりぎしゃりと足音は抜かるんでいる。まるで水を吸ったクラッカーを遊びがてら踏みつけているようだ。


 わざと足音をたてて歩いたことが目的地への最短距離を提示した。


 一対の足音に紛れ込む、巨獣の進軍。

 隠すことを知らず、覚えず、かみ砕くことだけを生業に生きた姿が、いびつな影としてせり上がる。


 仙人は歩みを止め、巨大化する影を直視する。

 顎をあげ、懐かしそうに眺める顔は、ねじくれた笑みをたたえていた。


/*/


 牙。それが彼女の役割だった。

 竜は巨大で複雑だ。そも、規模からして通常のCBの規格を越えている。通常であれば常に変化する環境へ適応するための複雑な計算を必要とするだけで、その個体の内面維持はそこまで複雑なものではない。だが竜は違う。内側に都市を抱える箱船は、自然環境を丸ごと持ち込み維持し続けることが求められる。


 故に竜は、他のCBとは隔絶した自己調整機能を持つ。

 それは、己の内に存在するすべてのCBを統括制御できるようなものだった。


 かくして僕や、彼女のような存在が生まれ落ちる。竜の目、竜の牙。体の部位を象徴するIDを与えられた僕たちはその役目にあり続ける。


 そんな僕たちが。もしも。主たる竜を失えば?


「それが、これか」


 僕の前で立ち止まった魔物は、うなり声一つ上げずに体を丸めて眠りにつく。かつて彼女を拾ったとき、マスターを僕と同じにしたことが意味を成した。自分で自分は傷つけないのは生存上の鉄則だ。


 しかしそれは、決定的な失敗だった。


 竜は自己調整機能を持つ。非常時とあらば、僕が彼女を助けるのはプログラム上の必然だった。


 無い知識を総動員し、有り合わせの部品を組み合わせた。

 けれどそれは、再現無く土地を破壊する魔物の誕生を促しただけだった。


 牙の役目。外的の排除。それが正しく運営された結果である。


「さて。彼らが生きていればうまく行くはずだが」


 辺りを見回すも、送り出した者達の姿は影も形も見あたらない。


 自分で自分は殺せない。直すことも自分の知識では難しい。だが他者をたよろうにも、通常のCBには近寄るなという警告がプログラム上優先される。

 だからこそ。この奇跡のような好機に賭けた。


「けど……失敗だったかな」


 落胆が、固まりとなって空から落ちてきて、体を縫いつける。


 ――そんな己を張り飛ばすように、


「さあ。魔物狩りの始まりだ!」


 宣戦布告が響き渡った。

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