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海里の果て  作者: 黒霧
竜の苗床
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灯台守の仕事

 まもなくして、盛大な暴風雨が僕たちを襲った。風速三十メートル毎秒。数値は直感でありその正確さを保証するものではない。ただまあ、スクラップ山にあったバイクの吹っ飛び具合からして、そのくらいじゃなかろうか。


 灯台は全身を振るわせていた。削岩気じみた轟音が耐久力を削っていく。そのうち根本からばきっといきそう。


「だから壁を削らないの」

「にゃー」


 かりかりやってる黒猫を抱えあげる。どうしたんだろうこいつは。仙人と顔を合わせてから本当に猫になってしまったみたいだ。……本物の猫とか、見たことないけど。


 灯台の中は存外明るかった。自生した苔がぼんやりと光を放っているからだ。いったい何を栄養にしているのか皆目検討つかないし、赤い光は壁に張り付く血のように見えるけど、まあ、明るいことに文句はない。

 内縁をぐるりと巡る階段を降りていく。一番下で仙人は生活している。ここから見ると、床に散らばったたくさんの部品がちかちかと光って見える。

 仙人は食事の習慣は無いみたいで、キッチンとかはないけれど。電磁波の合成や光発電で完全にしのいでいるみたいだ。


「って、眠らないの。自分で歩かないと太るよ?」


 腕の中で黒猫が尻尾を振る。ふらりふらりと頼りない。

 結局階段の下まで運んでやった。適当なところにおろすと、丸くなったまま動かない。本格的に寝入ったらしい。……こいつ、野生に戻りすぎだ。


「お疲れのようですね」


 ロッドを分解、清掃していた仙人が顔を上げる。僕はうなずきながら傍らに座り込んだ。


「それで、本当はこんなところで何やってるんです?」

「今時、何かをやっている物の方が少ないでしょう」

「あくまではぐらかす気ですか」

「いやまあ……。直球ですね」

「周りにひねくれ物が多かったので」


 ついでに言えば、あなたはひねたふりをしているけれど、その実ごまかすのはあんまり上手じゃない。なまじ他者の人格なんかが見えてしまえば、ひねくれるのも難しいのだろう。

 というわけで。せっかく自責の念を感じてくれるのだし、沈黙を貫くことにする。

 かさかさと、ロッドを整理する隣でじーっと待つ。


 ややあって、仙人は口を開いた。


「退屈なら、一つお話をしましょうか」


 期待とは違ったけど、退屈なのはその通り。


「是非」


 もちろん話題に乗るしかない。

 仙人は笑った。語り始める。


「このあたりはスクラップで山になっているんですが、これは北にかなり広がっていることをご存じですか?」

「いえ、まったく」

「昔タンカーが停泊した頃、このあたりに暮らしていたCBが停泊地を作ったんですよ。けれどそのタンカーが死んだ頃から、使う物もいなくなりましてね。次第に、押し寄せてくるゴミが乗り上げてきたんです」

「それでああなったんですか?」

「それはきっかけでした。さすがに、このままというわけにも生きませんでしたから。わたしは元々整備士でしたし、清掃用のシステムを作ってみたんです。とはいえ、海から流れてきた物を積み上げていくだけのものでしたが」

「ははあ。すごく歩きにくかったですよ、あそこ」

「ははは」


 笑ってすまされてしまった。タイミングが悪かったか。


「今の話で気づきませんか?」

「ん? ……ああ、そうか」


 魔物の正体にぴんときた。


「それ、実在するんですかね、まだ」

「さて。けれどわたしの清掃システムはまだ動いているはずですよ。港も一部はきれいなままですし」

「なるほど」


 寝転がる。床に敷き詰められた部品に工具が背中を押し退けようと突き刺さる。それを無視して目をつむった。

 さあって。晴れたら冒険だ。


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