旧式仙人
海鳥の声に満ちていた。
空は灰色。巨人が引きちぎってできたような隙間だけが青い。この短時間で突然現れた雲は、走り疲れたか立ち止まったまま動く気配がかけらもない。
「最近は天気がどんどん悪くなってくね」黒猫が言う。
「ずっとこんなものじゃない?」
「何十年も前はこんな変な天気はなかったよ」
「ふぅん」
変と言われても、僕が目にしたことのある天気はいつだってこんなものだ。今夜は嵐だろう。どれだけ続くかはわからない。むしろここしばらくの晴天の方が珍しかった。
「こうなると灯台でしばらく泊まりかな」
「仙人が許してくれりゃあね」
「許してくれないと困るねえ」
荒事は苦手なのだ。できれば、快く泊めてほしい。
スクラップの山を音を立てて上っていく。角張った凹凸が無数に生え斜面。とっかかりは多いが、歩きにくいことこの上ない。何度もよろけ、前後にふらふら揺れながら、頼りなく斜面を登っていく。
すいすいと脇を抜けていく黒猫。思わず立ち止まって見つめると、黒猫は振り返った。
ふふんと髭を揺らし、一足飛びに山を越えていく。このやろ。
そうしてスクラップの山を越えた先に、その港は広がっていた。
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港は存外きれいだった。未だ清掃機能が働いているのだろう、船着き場と灯台をつなぐ三日月型の道には残骸の破片一つない。海にもゴミはないようで、上空には海鳥が舞い、魚を捕らえようと急降下を繰り返している。
とはいえ、その清掃方針にはもの申したい。「臭い物には蓋をしろ」もしくは「とりあえず押入につっこんどけ」方式によって築かれたスクラップの山々は、入っていくにも一苦労だ。
「わたしゃあそれほどじゃなかったけどね」
「はいはい、偉い偉い」
例外はどうでもいいのである。
「ともかく、ここまできたら清掃担当に一言文句を付けないと」
「目的が変わってないかい?」
「仙人に清掃担当が誰か聞こう」
「無理矢理つなげたね」
「つぎはぎは僕らの得意分野」
結果として要件を満たしていればいいのである。細かいことは気にしてはいけない。案ずるより生むがやすし。……こういう使い方でよかっただっけ。
海沿いにしばらく歩いていると、人影が見えてきた。灯台のほど近くの地面に腰掛け、長い釣り竿を海に向けている。その長さ、およそ十メートルはあろうか。振るうのも大変そうな釣り竿は、風の中でも微動だにしない。
釣り竿を握っているのは男性型のドールだった。潮風に吹かれて、かみがぺったりと頭に張り付いてる。日焼けはしてないけど、錆びそうだ。
傍らで歩みを止めた。猫は服をひっかいて肩に上ってくる。
これが噂の仙人か。
「釣れますか?」
仙人は顔を上げると、にこっと笑った。
「竜が釣れました」




