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海里の果て  作者: 黒霧
竜の苗床
14/57

旧式仙人

 海鳥の声に満ちていた。

 空は灰色。巨人が引きちぎってできたような隙間だけが青い。この短時間で突然現れた雲は、走り疲れたか立ち止まったまま動く気配がかけらもない。


「最近は天気がどんどん悪くなってくね」黒猫が言う。

「ずっとこんなものじゃない?」

「何十年も前はこんな変な天気はなかったよ」

「ふぅん」


 変と言われても、僕が目にしたことのある天気はいつだってこんなものだ。今夜は嵐だろう。どれだけ続くかはわからない。むしろここしばらくの晴天の方が珍しかった。


「こうなると灯台でしばらく泊まりかな」

「仙人が許してくれりゃあね」

「許してくれないと困るねえ」


 荒事は苦手なのだ。できれば、快く泊めてほしい。


 スクラップの山を音を立てて上っていく。角張った凹凸が無数に生え斜面。とっかかりは多いが、歩きにくいことこの上ない。何度もよろけ、前後にふらふら揺れながら、頼りなく斜面を登っていく。

 すいすいと脇を抜けていく黒猫。思わず立ち止まって見つめると、黒猫は振り返った。

 ふふんと髭を揺らし、一足飛びに山を越えていく。このやろ。


 そうしてスクラップの山を越えた先に、その港は広がっていた。


/*/


 港は存外きれいだった。未だ清掃機能が働いているのだろう、船着き場と灯台をつなぐ三日月型の道には残骸の破片一つない。海にもゴミはないようで、上空には海鳥が舞い、魚を捕らえようと急降下を繰り返している。


 とはいえ、その清掃方針にはもの申したい。「臭い物には蓋をしろ」もしくは「とりあえず押入につっこんどけ」方式によって築かれたスクラップの山々は、入っていくにも一苦労だ。


「わたしゃあそれほどじゃなかったけどね」

「はいはい、偉い偉い」


 例外はどうでもいいのである。


「ともかく、ここまできたら清掃担当に一言文句を付けないと」

「目的が変わってないかい?」

「仙人に清掃担当が誰か聞こう」

「無理矢理つなげたね」

「つぎはぎは僕らの得意分野」


 結果として要件を満たしていればいいのである。細かいことは気にしてはいけない。案ずるより生むがやすし。……こういう使い方でよかっただっけ。


 海沿いにしばらく歩いていると、人影が見えてきた。灯台のほど近くの地面に腰掛け、長い釣り竿を海に向けている。その長さ、およそ十メートルはあろうか。振るうのも大変そうな釣り竿は、風の中でも微動だにしない。

 釣り竿を握っているのは男性型のドールだった。潮風に吹かれて、かみがぺったりと頭に張り付いてる。日焼けはしてないけど、錆びそうだ。


 傍らで歩みを止めた。猫は服をひっかいて肩に上ってくる。

 これが噂の仙人か。


「釣れますか?」


 仙人は顔を上げると、にこっと笑った。


「竜が釣れました」

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