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終幕 桜下追想

「ねえねえ、どうしたの? おばあちゃん」

 唐突に声を懸けられて、「うん?」と、彼女は首をめぐらした。

 そこには、元気いっぱいの子供たちが、彼女の前で不思議そうに並んでいる。それを見て、ああそういえば、昔話の途中だったな、と彼女は思い出した。

「ふふふ……ごめんなさいね。ちょっと、昔のことを思い出してしまって……」

「いいからいいから、おばあちゃん、話の続き!」

 そうね……と笑って、しかし、すぐに首を振った。

「いいえ。今ので、話は終わりなの」

「えー? お兄ちゃん、悪い奴にやられちゃったの?」

 ああ少しばかり、ちょっと話を変えてしまっただろうか。

 とはいえ、それは仕方がないかもしれない。こんなものは、子供相手に話すことではないのだ。悲劇に始まり、悲劇に終わった話など。

 けれど、こうして桜を見上げていれば……それでも構わないか、とも思いはするのだ。

「いいえ、違うわ」

 かぶりを振って……そして、不満そうな顔をしている子供の頭を、優しく撫でた。

「確かに死んでしまったかもしれないけれど……彼は、愛する人と共に、天国に行ったのよ」

「天国?」

 そう、と頷いて……。

「だからね、貴方達も……もし好きな人がいるのなら、ちゃんと気持ちを伝えないと駄目よ?」

 そう、結局のところ、そういう話なのだ。

 愛する人がいて、失って、それでも追いかけて、ようやく捕まえた男の話。

 要約すればたったそれだけのことで……だからこそ彼は、あんなにも穏やかな、満ち足りた顔をしていたに違いない。

 うーん、と変わらず頭を捻る子供たちの後ろで、女性が「ごはんよー」と呼びかけた。

 一斉に頷いて駆けだす子供たち。そしてそのうちの一人、先ほど頭を撫でられた子供が振り向いたが、老女が手を振ると、元気よく駆けて行った。

 ――桜の木が、風に揺れる。

 それを見上げながら、ゆき……九条雪は、かつてに想いを馳せた。


 時代は移り変わり……そして、人も変わりゆく。戦争は終わって、平和な時代が来て……しかし思うに、自分に時間はあの日から止まったままなのだ。

 愛する人の亡骸を抱き、穏やかな顔で息絶えたあの人の前で、私はひたすらに泣いた。

 あの結末で良かったのか、そうではなかったのか、今でもまだ分からない。

 でもきっと、思うのだ。

 彼は、走って、走って、走り続けて……あまりにも多くの命を奪った。その罪が拭えることは、きっと死してもないだろう。恐らく今頃、地獄の業火で焼かれているのかもしれない。

 けれどきっと、彼は耐えるだろう。その隣で、愛する人が支えていてくれる限り。

 そして、長い月日が流れた今なら――きっと、赦し合って、愛し合って、幸せな日々を送っているのではないだろうかと、そう思うのだ。

 だってこんなにも……二人の亡骸が眠る、この桜の木は、こんなにも美しく咲いているから。

 かつて、その下で二人が笑い合ったという、桜の木。九条の道場は、今では、親を失った子供たちを育てる、孤児院となっていた。

 ああ、嘉隆さん。ここは、こんなにも……美しくなりましたよ。

 見えているだろうか。聞こえているだろうか。時間が止まってしまって、だからこそ、こんなにも長く長く生きてしまったけれど。

 もうそろそろ……きっと、そちらへ参ります。

 だから私のことも、少しくらい、仲間に加えてください。


 ――九条嘉隆様。

 そして、九条楓様。

 貴方達は今、幸せですか――?

血桜鬼、終幕です。

ここまで読んでくださった方、なんとなくエピローグだけ読んでみたぜ!という猛者な方、最後まで読んで下さり、誠にありがとうございました。

この作品は、拙作「バレット・ブルー」が、書いたものをすぐに公開することが出来ない、というちょっとした大人の事情を鑑みまして。では、ちょっと短編でも公開してみようか、という思い付きから端を発しました。

元々短編の予定だったのですが、なぜか五話編成になり、さらにそれが九話編成となり……ちょっとばかり長くなってしまいました。

テーマはずばり、和×ハイスピードバトル×復讐劇。

実のところ、「何か暗い話が書きたいなあ」と思ってまして、そこでなんとなしにCDを物色していたところ、かの虚淵玄大先生の「鬼哭街」サウンドトラックCDなどが出てきたじゃありませんか。

「よし、じゃあ兄妹もので!」とかいうことになったわけですが……。

兄妹で復讐劇って、こりゃ完全パクりなんじゃね? とかいうものすごく嫌な予感、もとい正論により、強制的に和モノになりました。タイトルが全て四文字なのも、鬼哭街のパク……もといオマージュです。

この場を借りて、虚淵玄大先生には感謝と、そして謝辞をば。

時代設定は幕末、ということなんですが、黒船やら新撰組やらの話はさっぱり出てきません。敢えて言えば最後「戦争が終わって~」という辺りや三春藩主の名前で時代が特定出来るぐらいでしょうか。ちなみに三春藩は実在の藩なのですが、園守町というのは架空です。

しかし大変困ったのが、わたくし、日本史が実はそこまで好きなわけではなく、幕末にせよ江戸にせよ、舞台設定についてロクロク知識もなかったまま書き始めてしまったのであります。

特に身分制度とかもうわけわからん。同心とか与力とか、番頭とか町奉行とか、結局誰が偉いんじゃい!とかなっておりました。

江戸時代は近親相姦が普通にあった、とかいう話もちらほらあって、あれ、それじゃ物語破綻するくね?ということになり。元々あのシーンは、鬼部家が親子そろって登場する予定だったんですが、息子さんだけということになりました。まああんまり解決になりませんでしたが。

そのあたり、思考錯誤の跡が見られるかもしれませんが、どうかなにとぞご勘弁を……。

実は書き足りない、というより、書ききれなかった分もありました。特に最初に出てきた老婆なんかは、千子……つまるところゆきさんのおばあさんで、それを訪ねてきた返りに……という設定だったんですが。とんと出てきませんでした。村正に関してはもっと描ければ良かったんですが……。

じつは最後の場面、宗吾を貫いた刀が村正で、またもや村正の呪い……という流れだったりもするんですが。別に宗吾が村正の主君ではなかったので、普通に流してしまいました。

あと今回の作品を作るにあたって、剣術って言えば流派だよね!となり、伊守神道流やら和泉一刀流やら、なんかテキトーな感じの剣術が出まくっております。和泉一刀流に至っては必殺技っぽいの連発しておりますが、叫ぶ意味はなんかあるんでしょうか。

否! それは浪漫なのです! そう浪漫! 叫ばなかったら必殺技じゃないじゃない!(断言)

……まあ、それはさておき。

「血桜鬼」、いかがでしたでしょうか。自分なりに全力投球でやってみたつもりなのですが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

どうかまた、拙作をお見かけするようなことなど御座いましたら、是非ともご一読下されば、本当に嬉しい限りです。

それでは、いつかどこかで、また。

※PS.ちなみに、いまさらですが「血桜鬼」は「こうおうき」と読みます。本当に今更だ!

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