第十六話
景稔を訪れた麟冥と田福は雪見城の大臣室に通された。
間もなくして景稔は大臣室に入ってきた。
「いかがした。麟冥、田福。」景稔は疲れた表情をして椅子に腰をおろした。
「お加減が優れませぬか景稔様。」田福が心配そうに尋ねた。
「うむ。最近体調を崩しているのだ。まあ、歳のせいでもあるがな。
ところで本日は何用じゃ。悪いがあまり長い時間は取れぬぞ。」
筆頭大臣の景稔は、国主吏邦に劣らぬほど多忙なのを、麟冥達も知っていた。
「お忙しいところ、申し訳ございません。
本日は、お願いがあって参りました。
難しい願いである事は承知していますが、影者を一人ご紹介いただけないでしょうか。」
麟冥が単刀直入に切り出した。景稔であれば、理解してくれると思ったからだ。
「・・・たしかに難しい願いだな。」とだけ言いしばらく沈黙に入った。
「よかろう。まだ主を持たぬ影者がいないか当たってみよう。
私の元にも商十傑の動きの知らせが入ってきておる。
麟商会もそれらに備える必要があると思っていたところでもあったのでな。」
麟冥の思惑の通り、景稔は全てを理解してくれたのだ。
その上で、協力を約束してくれた。これは何より心強かった。
「しかし、時間はかかるかもしれんぞ。
影者は容易には育たん。それだけに人材は乏しいのだ。」
他にも景稔に対し諸事報告を済ませ、麟冥と田福は雪見城を後にした。
「これで防諜網に関しては、とりあえず一歩前進ですね。」田福が嬉しそうに言った。
「ああ。早速 次の問題への対策へ取り掛かろう。
帰社したら、すぐに打合せをしたいが大丈夫か?」麟冥が田福に問いかけた。
麟商会が抱える課題はもう一つあった。
雪に閉ざされた時期にも、北原の季発草を採取する方法の確立である。
暖燃粉の製造販売を決定してから、鷹飛達は休むことなく素材を採取し続けていたが、既に素材の在庫が尽きかけていたのであった。
採取人員に暖燃粉を服用させ、積雪の中でも採取は続けさせていたが効率が悪く、思うように採取できない状況が続いた。
一年の半分以上が積雪時期である采白において、この課題を解決しないと寒波に敗北する事を意味していた。
麟商会は急激な速度で成長を遂げている為、一歩前進する度に壁にぶつかり、その都度、対策を練らなければならかった。
しかし、麟冥には鋭気に満ちていた。多くの問題が前進できているが故の試練であったからである。
麟冥には、寒気における季発草採取の効率化に関しても、考えがあったのだ。