第十五話
さらに三か月が経過したが、暖燃粉の売行きは留まる事を知らなかった。
それどころか一度使用した者は、効果の高さを実感している為、全員が繰り返し購入を望んでおり、売行きは加速していた。
又、一年中気温の低い北国の中でも、特に寒さの激しい寒期と呼ばれる時期であった事も、需要高騰の原因であった。
早期に着手した人材の補強や、設備の増加等の施策も追いつかず、相変わらず一人一人への販売数を限定しなければならない状況が続いていた。
又、麟商会は、白都郊外に大きな土地を購入し、新本社建設に一ヶ月前から取り掛かっていた。
二階建ての大きな建物を作り、一階は製造場、二階は本社事務所になる予定であった。
建物の周りには防壁を作り、警備強化策も施されていたが、完成までに、あと三ヶ月は必要であった。
麟商会幹部達の多忙さに変化はなかったが、ここ数日 麟冥は田福と共に自室に籠り長時間打合せを行っていた。
情報管理担当の頼学より、商十傑の面々による暖燃粉の調査活動が活発化しているとの報告
が入ったため、その対策が麟冥と田福の打合せ内容の大部分を占めた。
その席に、当主補佐役に抜擢された穂垂も同席していた。
数ヶ月に渡る補佐活動にて、穂垂の聡明さを見抜き、参謀候補として育成し始めていたのであった。
「特に弐栄商社の動きが激しいな。防諜活動ができれば良いのだが・・・
弐栄商社の影者達に対抗するのは難しいな。」麟冥の表情は暗かった。
「はい。短期間では弐栄商社の影者軍に対抗するのは無理でしょう。
しかし、将来を見越して我々も影者の雇用は考えるべきでしょう。
景稔様に相談して、若い影者を紹介していただくのはいかがでしょう。」
田福が提案をした。
采白国家から受けている協力の窓口を田福が任せれていた為、采白国筆頭大臣である景稔と顔を合わせる機会が多くあった。
その際のやり取りで、景稔は田福の事を、噂に違わぬ優れ者であると評価していた。
特に最近は、当主 吏邦の長男である吏角の横暴が目に余っている状況が続いているため、景稔としても、勇者・賢者を一人でも多く、吏邦の味方に付けておきたいという気持ちが強かった事もあり、麟商会に対し、色々な協力を実施していた。
景稔は、麟商会への協力が、弐道を通じて間接的に吏角の横暴に関連している事には気が付いていたが、国力を高める施策として、麟商会との協力に躊躇する事はなかった。
そもそも吏角の野心の強さは生来のもので、そこに弐道が付け入っていれば、麟商会の事を抜きにしても吏角の横暴は逃れられないと判断もしていた。
さすがの田福も、景稔の心中を把握した上での付き合いをしているわけではなかったが、自分や麟冥が多少なり期待を背負っている事は理解していた。
その期待に応えるためにも、麟商会はまだまだ力をつける必要があった。
それには影者は欠かせぬ戦力である事を、景稔も理解してくれ、協力願いも通ると田福は読んでいた。
「よし。景稔様への目通りを申請せよ。」麟冥は、田福に命じた。