第十一話
「ありがとうございます。」麟冥は一呼吸して続けた。
「我々の望みは、暖燃粉の製造の独占権をいただきたいという事です。」
「なるほど、当然な申し出だな。」吏邦が頷きながら答えた。
「暖燃粉の製造は、そう難しくはありません。
ですが、微妙な調合もあるのも事実でして、その失敗は火災などに直結してしまいます。
我々は二年間の試験期間と古書の力を借りて、成功を収める事ができました。」
吏邦達は黙って聞いていた。
「一番恐れるのは、その失敗で、この暖燃粉の信用度を下げる事です。
皆が豊かになる機会を逃してもらいたくないのです。
そして、麟商会は暖燃粉で得た利益で、さらに色々な開発を進め、陛下のお力になりたいのです。」
もともと、麟冥が申し出なくても、本来 製造の権利は開発者に属する事になる。
しかし、麟冥の心配も最もで、商十傑の中には、資本力にものを言わせ、麟冥の権利を阻害する大手商会が現れる可能性もあった。いや、きっと現れる事だろう。この発明は10年間不動の商十傑に入り込めるに十分な収益があるに違いなかった。
吏邦は不動の商十傑が悪しき状態になりつつある情報もつかんでいた事もあったので、麟冥の願いを聞き入れる事に決めた。
「あい分かった。その願いを聞き入れよう。
麟商会に暖燃粉 及び その類の製造・販売権の独占を許す。」吏邦が明言した。
「但し、暖燃粉の浸透 並びに 采白の国力向上の妨げになる販売方法は許さぬ事は忘れるな」
吏邦が念押しをした。もとより、この青年にそのような邪な考えがないことは看破していたが。
景稔は、商十傑の反応を予想し一抹の不安を感じたが、吏邦の決断に口を挿まなかった。
吏邦同様、景稔も商十傑の中の数社の横暴に頭を抱えていたのであった。
麟冥と協力し、采白の商慣習を改善する良い機会かもしれないとも思っていた。
その後も、暖燃粉の活用方法の施策や、流通方法に関して等を打ち合わせて、麟冥達は雪見城を後にしたのであった。