グレイルプス①
翌朝、2人は町へ向かっていた。
「そういえば....」
「ん?」
「傭兵ではどんなお仕事してるの?」
「……魔族の討伐、賞金首や賊の捕縛または討伐、護衛、追跡、奪還、救出、偵察」
ヴェリスは無表情のまま、指を折って一つひとつ挙げていく。
「それから、魔物の討伐もある」
「魔物も?」
「ああ。だが亜人が多い」
「.......亜人ってオーク、ハーピー、ドラコニュートとか?」
「ああ」
亜人による被害も、魔族による被害も、王都まで届くことはあった。
村が襲われた。
街道で商隊が襲撃された。
辺境の集落が壊滅した。
けれど――
隣を歩いている人が、実際にそういう場所へ行っていた。
「……」
ミティは黙ってヴェリスの横顔を見る。
ヴェリスはいつもと変わらない。
何でもないことのように、前を向いて歩いている。
「……怖くないの?」
ヴェリスはミティを見る。
「何が?」
「何がって……」
ミティは言葉に詰まる。
「魔族とか、亜人とか……」
ヴェリスは少し考えた。
「慣れている」
「……慣れるものなの?」
「慣れる」
あまりにも淡々としている。
言葉が出ず、俯くミティを見て、ヴェリスは少しだけ間を置いた。
「……危険かどうかは考える」
「でも怖いとは?」
「必要なら考える」
「それ、怖いって感情を後回しにしてるだけじゃない?」
ヴェリスは答えなかった。
「……」
「……昨日の夢」
ヴェリスの視線が向く。
「ん?」
「ううん……」
ミティは首を振った。
「なんでもない」
ミティは、再び前を向く。
それ以上、ミティは何も言わなかった。
自分と一つしか違わない、この人は自分とはまるで違う世界で今まで生きてきた。
ほとんど同じ歳月を過ごしてきたはずなのに、見てきたものも、立ってきた場所も、きっと何もかも違う。
自分が遠くから聞いていた「亜人」や「魔族との戦い」を、ヴェリスは実際にその目で見て、その足で歩いてきた。
それを思うと、胸の奥が少しだけ締めつけられるような気がした。
けれど、何と言えばいいのかは分からない。
「大変だったね」と言うのも違う気がした。
そんな簡単な言葉で、この人が歩いてきた道を分かったつもりにはなりたくなかった。
並んで歩く二人の間に、静かな風だけが吹き抜けていく。
◇
二人は冒険者ギルドの掲示板の前に立っていた。
建物の中はいつも以上に賑わっている。
そんな中、ヴェリスは掲示板へ静かに目を向けていた。
一枚ずつ依頼書を見ていく。
急ぐ様子はない。
内容を確かめながら、ゆっくりと視線を動かしていく。
すると一枚の依頼書を掲示板から外す。
ミティは隣から覗き込んだ。
依頼内容:グレイルプスの群れの討伐
場所:東の森(旧街道沿い)
危険度:Dランク
報酬:3000クート
詳細:街道付近に出没するグレイルプスの群れ(3〜4頭推定)の討伐。
※討伐照明としてグレイルプスの牙を持参すること。
ミティは依頼書を見つめる。
「今日は、それにするの?」
「ああ」
ミティは小さく息をついた。
グレイルプス。
群れで行動する狼型の魔物。
名前くらいは知っている。
実際に戦ったことはない。
ミティは依頼書へもう一度目を落とす。
「スライムより強い?」
「ああ」
魔物と言えば、今まで討伐したのはスライムだけだった。
それも、ヴェリスに教わりながら。
狼型の魔物となれば話は違う。
きっとスライムとは比べものにならない。
「……私にできるかな」
思わず本音が漏れた。
ヴェリスは依頼書を持ち、静かに受付へ向かって歩き出す。
「できる」
その一言には迷いがなかった。
二人は受付へ向かう。
受付の女性は依頼書を見ると、小さく微笑んだ。
「グレイルプス討伐ですね。」
ヴェリスは小さく頷いた。
「ああ」
女性は依頼書へ受付印を押す。
「お気を付けて」
依頼書を受け取ると、ヴェリスはそのまま踵を返した。
「行こう」
「うん」
ギルドの扉を開ける。
ミティは隣を歩くヴェリスを見つめる。
この依頼を選んだということは。
ヴェリスは自分なら戦えると判断したのだ。
その信頼に応えたい。
そう思いながら、ミティは静かに歩き出した。




