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第32話 何で勝手に決めちゃうの? 

19.


 その後の時間は、まるで夢の中を漂っているように目の前のことが何ひとつ頭の中に入ってこなかった。

 シャナラ付きの侍女の立場を外された。

 時間が経つにつれそう告げられた事実は、厳然たる現実として重みを増していった。


 結婚したらシャナラのそばにいられない。そうわかっていたら、結婚しようとなどと思わなかった。

 シャナラのそばにいたい、シャナラが故郷に帰れるようにしたい。

 自分が望んでいたのはそれだけだったのだ。

 そう素直に言っていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

 なぜあの時、意地を張ってしまったのだろう。

 悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。


(シャナラさま……)


 脳裏にシャナラの姿が浮かぶ。

 優しく微笑む顔、困ったような顔、頬を染めて俯く様子。

 最初のころよく見ていた、どこか遠くを見ているような美しい横顔。


(もう……お会いすることができないんだ)


 そう考えると胸がつぶれそうな心地がした。

 これから先、どれだけ生きても、どれだけ願ってもシャナラに会うことはできない。

 そんな理不尽なことがあっていいはずない。

 そう訴えたいが、誰に、何に訴えていいかわからなかった。


「ルルタ……」


 かけ布をかぶって寝台にうずくまった背中に、労わるように手を置かれるのを感じた。


「ご飯、食べない? 食べる気持ちにならないかもしれないけれど、少しは食べたほうがいいよ」


 ルルタは顔を上げる。

 泣きすぎてもう枯れただろうと思ったのに、心配そうなユンカの顔を見た瞬間、再び目から涙が溢れてきた。


「ユンカ……わた……私、知らなかったの。シャナラさまに会えなくなっちゃうなんて……ぜんぜん、そんなこと思っていなかったから……ひどい態度とっちゃった。だ、だって、だって! あの時は、明日、また会えるって思っていたから……! 会えなくなっちゃうなんて思ってなかったから」

「ルルタ……」

「謝りたい……シャナラさまに。お会いしたい。私が思っていることを、まだ何もお伝えしていないんだもの」

「寵妃さまはルルタに怒っているわけじゃなかったんでしょう? 何か事情があったんだよ。落ち着いたらご伝言をくださるよ」


 ルルタは別れ際のシャナラの言葉を思い出す。

 シャナラはまったく怒っていなかった。むしろルルタのことを労わり、思いやっていた。

 だからこそ告げられた別れは一時の感情によるものではなく、シャナラの中では熟考の末の固い決意なのではないか。


(何で……)


 ルルタは心の中で呟く。


(何で……何も言わないで一人で決めちゃうんですか)


 再び瞳から涙をあふれさせたルルタの顔を、ユンカは心配そうに覗き込む。


「寵妃さま付きの新しい侍女が決まったら、その子に寵妃さまのお気持ちを聞いてくれるように頼んでみようよ。私やキラも寵妃さま付きにしてもらえるように言ってみるから」

「それは無理ね」


 不意に冷静な声が割り込んできたため、ルルタとユンカは同時に顔を上げる。


「キラ……え? レイさま?」


 部屋に入って来たキラの背後には、居心地悪さと不機嫌さをないまぜにしたような表情をしたレイが立っていた。


「何でレイさまがキラと一緒にいるの?」

「婚約者が具合が悪いんだから、見舞いに来るのが当然でしょ」


 ユンカの問いにキラはこともなげに答える。


「婚約? 誰と誰が?」


 目を丸くするユンカの物問いたげな眼差しには答えず、キラは寝台の上でかけ布をかぶっているルルタの前に立つ。


「今後は寵妃さまのお側には侍女はおかず、マーリカさまと侍従長のクランスカさまが選んだ人間が世話をするみたいよ」


 事務的な口調でそう言ってから、キラはルルタの顔を真っすぐに見て言った。


「ルルタ、これでいいの?」


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