第20話 ラガルドとシャナラの関係
ラガルド将軍は由緒正しい血筋に加え、軍隊の指揮権も握っている。実質的な権力は国王をしのぐ。
そんな人間に「部屋から出ていけ」と食ってかかったのだ。
よく今の今まで何も言われず咎められず、無事でいられたものだ。
今さらながら、ルルタは青ざめる。
だが。
ルルタはシャナラの部屋での、ラガルドの様子を思い出す。
いくら国王をしのぐ権力者とはいえ、後宮で……ましてや、今現在、国王の唯一の妃であるシャナラに対して、あのような人もなげな振るまいをして許されていいはずがない。
そう思い、肩をいからせたルルタの顔を、レイは馴れ馴れしい様子で覗きこむ。
「ラガルド将軍と寵妃さまは部屋でどんな様子だった? 将軍は何か言っていなかったか? 何の用で来たのかとか、寵妃さまに何か頼んだとか」
「レイさま」
ルルタは勢いよく顔を上げる。
気圧されたように体をそらしたレイに、ルルタは目尻を吊り上げて詰め寄った。
「あの人、どうにか出来ないんですか? いくら偉いかただからっておかしいです。後宮に入ってきて、シャナラさまの部屋であんな我が物顔で振る舞って」
「おい、馬鹿! く、苦しい」
「なあぁぁーにが、『お前が、こんなによくさえずる小鳥を飼っていたとは知らなかった』だ。馬に蹴り飛ばされて鼻血でも出せばいいのに!」
「やめろ! 首を絞めるな! 殺す気か!」
レイの叫びを聞いてルルタは我に返った。興奮の余り、レイの襟首をつかんで締め上げていることに気付き、慌てて手を放す。
「も、申し訳ありません、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけがあるか! お前は山猿か!」
「まったく、下賎の者はこれだから」と嫌味を口にしながら、レイは服の乱れを直す。
「おかしいと言っても、侍女ごときがどうにか出来るものか。後宮の警護を統轄しているのもラガルド将軍だ。泥棒に向かって『何でお前を捕まえないんだ』と言うようなものだ」
「それに」と、レイは微かな軽侮を込めて肩をすくめた。
「寵妃さまは、ラガルド将軍とたいそう親しいからな。邪魔したらかえって恨まれるんじゃないか」
「そんなことありません! 寵妃さまはいきなり入って来られてすごおぉぉーーーく迷惑そうでした」
ルルタは興奮で顔を真っ赤にして叫ぶ。
「寵妃さまが遠慮されているのをいいことに、あいつ……あ、いえ、あの男……じゃない、ええと、ラガルド将軍は我が物顔に振る舞って……。まるで寵妃さまのことを苛めて楽しんでいるみたいな、いやーな感じでした。私が男だったら叩き出してやったのに!」
「なに?」
レイは不意に瞳を光らせて、ルルタの言葉を遮った。
「今、何て言った?」
「え?」
勢いを挫かれて、ルルタは戸惑いながらも自分が言った言葉を繰り返す。
「私が男だったらぶちのめしてやる……」
「そこじゃない。お前がラガルドをどうしようがそんなことはどうでもいい。その前だ」
「前? ですか? 寵妃さまを苛めて……」
「それより前だ。寵妃さまは、ラガルド将軍が来たことが迷惑そうだったのか?」
レイはイライラしたように言葉を重ねる。
「お二人は親密そうではなく、むしろ仲が悪く見えたのか?」
「は……は、はい! そうです。シャナラさまは、ものすごぉぉーーおく! 迷惑そうでした」
「寵妃さまはラガルドのことを嫌っているのか? そうなのか?」
「は、はい! もんのすごおぉぉーーーーおおおくっ!! 嫌っていらっしゃいます」
「本当か? 間違いないのか?」
「間違いありません。シャナラさまはそんなことは言いませんけれど……でも」
ラガルドといた時のシャナラの様子や、ラガルドの来訪を恐れている姿を見れば嫌でもわかる。
シャナラはあの男を嫌っているが、支配から逃れられないのだ。
部族を救ってもらった恩があるからだろうか。
だがどんな恩があろうが、あんな態度が許されていいはずがない。
レイは少女のように優美な顎先を、指で撫でて考え込む。
長い沈黙のあと目に入ったレイの表情は、いつもの権高さが嘘のように優しいものだった。
「寵妃さまは、ラガルドに何か弱みを握られていて仕方なくお会いしているだけなのか。そうなのか?」
ルルタが釣り込まれたように頷くと、レイはさも後悔していると言いたげな沈痛な表情になった。
「そうだったのか。知らなかった……。寵妃さまには申し訳ないことをした」
「申し訳ない?」
首を傾げるルルタの前でレイは言った。
「僕はてっきり、寵妃さまはラガルド将軍と手を組み、この国の政を欲しいままにしようとしている。そう思っていたんだ」
「え……ラガルド将軍と? 手を……組む?」
ルルタは仰天して叫んだ。
「シャナラさまが、この国を乗っ取ろうとしていると思われているんですか?!」




