頼られる女将
ある日のこと。旅館に、男女二人がやってきた。
一人は雪女。もう一人は雪男。
クスクスと笑いながら、連れ立って旅館へと入ってくる。
最初はにこやかな笑みを浮かべていた二人だったが、部屋へ案内されると、中に入る前にキッと、案内役の二口女を睨みつけた。
『廊下、暑いのだけれど。部屋の中は大丈夫なんでしょうねぇ?』
雪女の冷たい視線に、二口女はビクビクと震えながら「は、はい……」と頷く。
『そんなに驚かせては駄目だよ、雪女。可哀想じゃないか』
心配しているような声をかける雪男だが、その視線には明らかな嘲りが含まれていた。
確実に二口女を見下しているのがわかる。
その下品な笑い声を背に受けながら、二口女は襖を開ける。
『どうぞ』
頭を下げて二人を中へと案内する。
二人は互いに抱き合いながら、部屋へと入っていった。
――必ず何か文句を言われる。
二口女には、それがはっきりとわかっていた。
何を言われるだろうか。
どう返せばいいだろうか。
そう考えていると、二人は突然、言葉を失った。
何も言われないことを不思議に思い、二口女は恐る恐る顔を上げる。
その瞬間、部屋から流れてくる冷気を感じた。
中を覗き込み、二口女もまた、言葉を失う。
『こ、これは――……』
部屋の中は、氷に包まれていた。
氷のテーブルに、氷の襖。
氷の座布団に、氷の布団。
まるで最初から、この二人のために用意されていたかのような部屋だった。
二口女でさえ、思わず息を呑む。
『……ま、まぁ。悪くはないわね』
文句を言うつもりだった雪女は、引きつった笑みを浮かべて二口女を見る。
そのまま雪男と共に部屋へ入り、襖を閉めた。
その場に呆然としていると、スイの母が二口女の肩をぽん、と叩く。
『あ、あの……これは……?』
『最初はクーラーを強くすればいいかと思ったのですが、それだと難癖をつけられそうでしてねぇ~。働いている雪女さんに、ちょっとお願いしてしまいました』
てへっ、と舌を出し、母は二口女の頭を撫でる。
『緊張しましたね。ありがとう。ここからは私がお客様をご案内しますから、安心して』
そう言って背中を押し、この場を離れるよう促した。
すると、部屋の中から雪男の声が響き、襖が勢いよく開く。
『座布団が固くて痛ぇんだが!? 氷だからって許されると思うなよ!!』
その怒鳴り声を聞くと、母は変わらぬ笑顔を張り付けたまま、手を鳴らした。
すると、待機していた雪女が、何もない空間から雪の結晶と共に姿を現す。
『では、柔らかくて冷たい氷の座布団をご用意しますね』
事前に準備されていたかのように、事はスムーズに進む。
雪女は、みぞれで作られた、氷よりも柔らかい座布団を生み出した。
その感触は、ビーズクッション。
柔らかく、それでいて冷たさは残っていた。
それに座ると、座り心地が良かったのか、雪男は舌打ち零す。
『……さっさと出て行け』
母親を睨んだかと思うと、捨て台詞を吐いた。
二人は余裕のある態度で頭を下げ、襖を閉める。
そして廊下に出ると、互いにハイタッチを交わし、満足そうな笑みを浮かべながら足早に去っていった。
その後も、母は事前に想定していたクレームに次々と対応していく。
どれも簡単には予想できない内容だったが、的確な指示であやかしたちを動かし、二人が暴れることはなかった。
やがて、雪女と雪男は何事もなく旅館を後にする。
二口女はその姿を見つめながら、いつでも冷静に事を解決する大切さを学び、胸に決意を刻んだ。
――自分もいつか、母のように頼られる女将になるのだと。
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