真実(2)
「まぁ、あの二人の手腕は、普通ではありませんでしたからね」
「そうだなぁ。天狗も我も、敵に回したくないと直感的に思うくらいだからなぁ」
「そうですね。私も、あのお二人は絶対に敵に回したくありません」
二人は強く頷いた。
その会話が理解できず、スイは天狗の裾を引っ張る。
「あの……あの二人って、もしかして私の両親ですか」
「そうだ。お前の両親は、本当にあやかしをまとめる力が凄まじく、ちょっとやそっとでは旅館で暴れさせなかった」
そんな話を聞くのは初めてで、スイは唖然とした。
「つ、つまり……両親がいれば、今回の猫又家族も、あそこまで暴れなかったということですか?」
「だろうな。玄関で出迎えた時点で、戦意を喪失させていただろう」
天狗は当然のように腕を組んで言った。
その後ろで、九尾も同じポーズで「うんうん」と頷いている。
――――つまり、九尾様が悪いわけじゃなくて。
結局、私の力不足で、今まで旅館に多大な迷惑をかけていたってこと?
それなのに、九尾様のせいにして、天狗様にあんな酷い愚痴を……。
自分が弱いくせに、他人のせいにしていた……?
二人の話を理解した瞬間、スイの顔は一気に青ざめた。
その様子に、九尾が首を傾げて天狗に問いかける。
「どうしたのだ、この小娘は」
「自分の考えが甘かったと、実感したのだろう」
「????」
天狗の簡潔な説明に、九尾はまるで理解していない様子だ。
スイは二人の会話が耳に入らず、俯いたまま、誰とも目を合わせられなかった。
「うーん……」
九尾は少し考え込むと、何かを思いついたようにスイの顔を上げさせる。
「え、あ、あの……」
「少し静かにしていなさいなぁ~」
九尾はそう言って、人差し指をスイの額にそっと当てた。
途端に、額が温かくなり、心がすっと落ち着いていく。
「――――なるほど。我のせいで、旅館が危険な目に遭ったと思い込んでいたのだな」
「ひっ!? す、すみません!! 私の力不足を棚に上げて、すべてを九尾様のせいにするなんて……ただの人間である私が、傲慢すぎました! 本当に申し訳ありません!!」
スイは地面に額を擦りつけるように、勢いよく土下座した。
涙目で、どうすればいいのかわからず、完全にパニックになっている。
その姿を見た九尾は、腹を抱え、大声で笑い出した。
「ははははははははは!!」
あまりの反応に、スイは口を開けたまま固まる。
天狗は呆れたように肩をすくめ、ため息を吐いた。
「あ、あの……怒らないのですか?」
「なぜ怒る? 怒るようなことではないだろう!」
「で、ですが……! 私は自分の力不足を貴方のせいにして……!」
言葉にするほど、自分の未熟さが胸に刺さり、涙が滲む。
それでも泣いてはいけないと、スイは必死に体を震わせた。
「ふむ……人間の感情というものは、本当に面白い」
「え、な、なんでですか?」
「あやかしの世界では、自分が悪いと認める者は少ない。皆、他者を傷つけ、力を誇示する。だからこそ、お主のその懺悔が、実に興味深いのだ」
九尾はまた楽しそうに笑う。
スイは言葉を失い、助けを求めるように天狗を見る。
「あやかしと人間では、価値観が違う。それだけ理解しておけ」
「……はい」
天狗はそう言って、九尾へと視線を向けた。
「ですが、こいつの言う通り、今まで招いたあやかしに酷い目に遭わされています。警戒レベルを上げていただけませんか?」
「構わぬが……経営は大丈夫か? あやかし相手が主であろう。選別しすぎれば、旅館は傾くぞ」
九尾の言葉も、もっともだ。
あやかしは本来、力を誇示し、恐怖で支配する存在だ。
そして――妖癒旅館には、人間であるスイがいる。
人の肉や魂は、あやかしにとって極上の糧。
それを知る者たちが、この旅館に集まってくる。
「問題ありません。私が管理していますから」
「ならばよい。ところで、人間がちらほら旅館に興味を持ち始めているが、どうする?」
「問題なければ招いて構いません。記憶も消さず、拡散してもらいましょう」
鴉の面に隠れて表情は見えないが、天狗の声色には何かを企む響きがあった。
九尾は呆れたように肩を落とす。
「お主も、大概だな」
「旅館さえ守れればいい。それ以外は、知ったことではありません」
――だが。
「待ってください!!」
スイが一歩前に出て、声を上げた。
「それは違います! 人間にも癒しを与え、恐怖を和らげる。それが、この旅館の役割です! 癒しの空間を提供することで、いい形で広めるべきです!」
必死に訴えるスイに、天狗は体ごと振り向いた。
「言うほど簡単ではない」
「それくらい、わかっています! でも、だからって諦める理由にはなりません!」
「……ほう」
「なんでそこで感心した声を出すんですか!? 馬鹿にしてるんですか!?」
「している」
「酷い!!」
スイは天狗を叩こうとするが、頭を押さえられ、全く届かない。
「なんでですかー!!」
そんな二人を見て、九尾はまた大笑いした。
「「笑い事じゃない!!」」
二人の声が綺麗に重なり、さらに九尾は腹を抱えて笑う。
「まぁまぁ。では具体的に、どうするつもりだ?」
「まず、私の両親の仕事ぶりを調べたいです。聞き込みをしてもいいですか?」
指を一本立てて提案するスイに、天狗は腕を組む。
「好きにしろ」
そう言って歩き出す天狗に、スイは頬を膨らませる。
「なんで私にだけ、そんなに冷たいんですか」
その肩に、九尾がそっと手を置いた。
「これからは、周りをよく見てみることだな。特に玄は……仮面を被っている分、わかりにくいからなぁ」
九尾はそう言って笑い、いつの間にか手にしていた酒瓶を振りながら姿を消した。
「……どういう意味?」
首を傾げるスイに、天狗が振り返る。
「早く来い」
「はい!」
スイは慌てて返事をし、天狗の後を追って駆け出した。
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