真相(1)
「…………九尾が、すべて悪いわけではない」
「わかっています。私も、もっと上手く立ち回ることができれば、防げた事態もたくさんありました。すべての責任を九尾様に押し付けるつもりもありません。でも……」
「反省しているように、見えないと」
「そうです」
少しでも反省しているのであれば、お酒を控え、仕事に集中するはずだ。
だが九尾は、そうしない。
仕事中であろうと、そうでなかろうと、お酒を飲んで酔っ払い、厄介な客を招き入れてしまう。
スイは、さまざまな思いを抱えていた。
こんなことを言えば、天狗を困らせてしまう。
それに、事情を何も知らない自分が、こんな感情を抱くのもおかしいとわかっている。
頭では、理解している。
それでも――両親はあやかしの暴走に巻き込まれ、今も入院中だ。
自分自身も、何度か危険な目に遭っている。
怖くて仕方がないのだ。
優しいあやかしがいることも、ちゃんとわかっている。
それでも、怖い。
視線を落とし俯くスイの頭に、温かい手がそっと置かれた。
「お前の気持ちは、わかった。それなら――直接、聞きに行くぞ」
「え? 聞きに行くって……?」
「九尾のところだ。今なら、人知れずの森の神木の前にいるだろう」
そう言うと、天狗はスイの手を掴み、立ち上がらせて歩き出した。
「あ、あの……」
「今は客もいない。少しの休憩時間だ。旅館を少し離れても問題ない」
「で、でも……天狗様は、お忙しいのでは?」
「あぁ、忙しい。猫の手も借りたいくらいにな」
「それなら……」
なぜ、そこまで自分に構うのだろう。
そう思い、スイは手を振り払おうとした。
だが、男性の力には敵わない。ずるずると引きずられるように、旅館の外まで来てしまった。
「あの! 私は、本当に大丈夫なので!」
「大丈夫ではないだろう。今回のようなことを、何度も繰り返されては困る」
――――結局、私の心配じゃなくて、同じ問題が起きるのが困るだけなんだ。
一瞬、心配してくれているのかと喜びかけた分、余計に肩を落とした。
「おや、天狗様? スイ様とどちらへ?」
「少し出かけるだけだ」
「了解しました。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
二口女が声をかける。
一緒にいたろくろ首は、「ひっひっひっ」と独特な笑い声を立てながら、二口女と共に腰を折って二人を見送った。
人知れずの森へ向かうには、旅館を出て、森の奥にある御神木を通らなければならない。
パラレルワールドからの客も訪れるため、九尾のいる場所は、いわば異空間だ。
スイのような人間は、たとえ旅館の上の立場であっても、勝手に立ち入ることはできない。
そのため、異空間へ行くのも、スイにとってはまだ二度目。緊張は隠せなかった。
天狗に手を引かれ、森の中を歩く。
着物のため足元は悪く、道も細い。石や枝につまずき、転びそうになる。
そのたびに、天狗はスイの手を傷めないよう、しっかりと支えていた。
そうして歩き続けるうち、細かった道は少しずつ開けていく。
陽光が差し込み、辺りが眩しくなった。
掴まれていない方の手で目を覆っていると、「着いたぞ」と前から声がする。
恐る恐る手を下ろした瞬間、思っていた以上に美しい光景が広がり、言葉を失った。
「ここが、この世界の神木だ。お前は人知れずの森の神木しか見たことがないから、驚いただろう」
「はい……ここまで違うとは、正直思っていませんでした」
キラキラと陽光が差し込む広場。
中央には、赤い注連縄が巻かれた御神木が立っている。
神木そのものが光を放っているかのように、神々しく感じられた。
思わず見惚れて立ち尽くすスイをよそに、天狗は神木へと近づく。
「今は客がいないとはいえ、仕事は溜まっている。見惚れている時間はないぞ」
「は、はい」
天狗が神木に手を触れた瞬間、眩い光が溢れ、スイは思わず目を閉じた。
すぐに腕を引かれ、そのまま光の中へと引き込まれる。
数秒の浮遊感の後、足が地面を踏みしめた。
恐る恐る目を開けると、低く楽しげな男性の声が聞こえた。
「おやぁ? これは珍しい客だねぇ。どうしたんだい?」
聞き覚えのある声。
曖昧な記憶を辿りながら、スイは視線を上げる。
そこには、思わず目を奪われるほどの美貌の男が立っていた。
「この小娘は……確か、スイと呼ばれていたかい?」
赤い瞳を細め、スイを見つめる。
一歩近づこうとした瞬間、天狗が間に割って入った。
「お待ちください。今日は少し話をしに来ただけです。あまり時間はありません」
「そうか。それは残念だ。それで、話とはなんだ?」
口元から覗く八重歯を光らせ、腰まである銀髪を揺らす。
カーキ色の着物に黒い帯。帯には藍色の扇子が差してあった。
「今回招き入れた猫又家族が問題を起こしましたが、ご存じですか?」
「話は聞いておるぞ。まさかと思ったが……最初は良い家族だと思ったんだがな」
けらけらと笑う九尾に、スイは思わず眉をひそめた。
――――どうして、そんなふうに笑っていられるの?
「なぜ、今回の猫又家族を招き入れたのですか?」
「ん? 今までなら、あの程度の憎悪など、簡単に諫められていただろう? だから招き入れたのだが」
九尾の言葉に、スイは思わず「え?」と声を漏らす。
二人はそれに構わず、話を続けていた。
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