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人間スイとあやかし玄が営む妖癒旅館―人とあやかしが共に生きる、もう一つの世界―  作者: 桜桃
覚悟の時

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重要な役割

 今回の猫又家族のおもてなしは、結果としては順調に進んだ。


 最初に一度大きく揉めたためか、その後は目立った事件は起こらず、翌日の昼頃にはチェックアウトを済ませ、猫又家族は帰っていった。


 その間、スイは部屋に一人で過ごしていた。

 二口女が、今回のおもてなしについての出来事を細かくまとめた資料を、スイのもとへ届けに来た。


「ありがとうございます」


「いえ。ご確認、よろしくお願いします」


 二口女は腰を折り、静かに部屋を出て行った。


「…………はぁ」


 資料は、今までよりも数枚多い。

 おそらく、スイが部屋に戻ってからも、現場は今まで通りにはいかなかったのだろう。


 スイは今、両親からこの旅館を受け継ぐ準備の最中だ。

 自信は薄れ、本当に自分にできるのかという不安が、胸を埋め尽くしていた。


「ダメダメ! そんなことを考えてちゃダメ! 私は絶対に、この旅館を受け継いで、立派に全うしてやるんだから!!」


 そう気合を入れ、資料を読み始める。


「うわぁ……部屋に案内してからも、好き放題だったんだ。こういうのを、DQNって言うんだっけ。動画で見たことがある」


 部屋に案内された後も、人間界の飲み物や酒、菓子を持ち込み、まるでパーティー状態。


 持ち込み自体は禁止ではないため注意はできなかったが、壁やベッドまで汚されてしまったと記されていた。


 賠償請求をしたいところだが、もう関わりたくない。

 最後まで読み進め、スイは「あっ」と声を漏らした。


「そうか……賠償請求をしない代わりに、出禁にしたんだ。まぁ、ここまでやられたら、そうなるよねぇ」


 来て早々、大きな騒ぎを起こし、備品を壊して暴れたのだ。

 出禁にされても、文句は言えない。


「はぁ……もっと私が上手く立ち回れていたら、ここまで被害が大きくならなかったのかなぁ」


 ――――こんな時、お父さんとお母さんなら、どうするんだろう。


 今はもう、ここにいない両親の姿を思い出す。

 スイの両親は、現在入院中だ。


 旅館で暴れたあやかしたちに巻き込まれ、重傷を負った。

 命は助かったが、入院してからもう半年、いまだ目を覚まさない。


「私は……本当に、ここで成長できるのかなぁ」


 資料をテーブルに置き、天井を見上げる。

 木目を数え、気持ちを落ち着かせる。


 押し寄せる不安を振り払うように、頭をぶんぶんと振った。

 その時、襖の奥から天狗の声が聞こえ、スイは姿勢を正す。


『スイ、いるか』


「はい」


 正座し直すと、天狗は音を立てずに襖を開いた。


「いかがいたしましたか?」


「二口女から、今回の資料は受け取ったか?」


 スイの問いを華麗にかわし、天狗が質問を重ねる。

 いつものことなので、スイは気にせず、テーブルの資料を手に取って見せた。


「受け取りました」


「中身は?」


「確認しましたよ。出禁、ですよね」


「そうだ。九尾にも伝えておく」


「そういえば……九尾様は、なぜ今回もあんな危険な家族を招き入れたのですか?」


 そう尋ねると、天狗は視線を逸らした。


「え……あの?」

 

 再度問いかけるが、天狗は黙り込んでいる。

 その反応だけで、スイは察してしまった。


「……お酒、ですか」


「《《それも、含まれている》》。だから、きつく言っておく」


「一応、お願いします」


 九尾は、妖癒旅館に招き入れる客を選別する役目を担うあやかしだ。

 この妖癒旅館は、九尾が許可さえすれば、どの世界からでも客を招くことができる。


 たとえ、パラレルワールドの世界であっても。


 そのため、同じ種族のあやかしでも、性格がまったく異なる場合がある。

 今回の猫又家族も、別の世界の猫又であれば、問題なく迎え入れることになる。


 だからこそ、九尾の立場は非常に重要だ。

 妖癒旅館の運命を握っていると言っても、過言ではない。


 だが、その九尾の性格が、非常に問題だった。


「はぁ……前回もお酒を飲んで酔っ払って、変なお客様を招き入れていましたよね」


「その前もだ。あいつが酔っている時に限って、厄介な客が来る。わざとじゃないかと思うほどだ」


「あはは……さすがに、わざとではないと思いますが……」


 九尾は、自分の役割の重要性を理解していないのではと思うほど、自由奔放だ。

 現代社会へ行き、人間の娯楽を楽しむのは日常茶飯事。


 煙草、パチンコ、酒――。

 クズ男と言われても、否定できない。


 それでも、妖癒旅館への案内役は、九尾にしか務まらない。

 天狗もスイも、それを理解しているからこそ、深いため息しか出なかった。


「まぁ……酔っていなければ、仕事はきちんとする」


「仕事をしないと給料が出なくて、娯楽もできませんもんね」


「言うようになったな。さては、九尾のこと、嫌いだろう」


「正直に言うと……あまり好きではありません」


 スイは俯き、ぽつりぽつりと語り始めた。


「九尾様とは、一度しかお会いしたことがありません。その時も酔っていて、話がほとんど通じませんでした。そして、その数か月後、変なあやかしを招き入れて……私の両親は怪我をして、いまだに目を覚ましません。すべてが九尾様のせいではありませんが……少しは、責任を感じてほしいと思っています」


 スイと九尾は、最初に挨拶をしただけの関係だ。

 ほとんど面識はない。


 だからこそ、九尾のせいで何度も妖癒旅館が危険に晒されているように、スイには思えてならなかった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


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よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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