反撃の言葉
「やっぱり、体調が優れませんよね。自室に行けるのであれば、休んでいてください。また倒れてしまいますよ」
「そうは言っていられないだろう。どうやら、俺の偽物がこの旅館をさまよっているらしいからな」
「そ、そうですが……今の天狗様では危険です! 今は休んだ方が――」
「お前に心配されるほど、俺は落ちていない。お前こそ、絶対にこの部屋から出るな。結界を張っておく」
そう言いながら、息切れを抑えつつ天狗は廊下へ出ようと、襖に手をかけた。
だが、スイは咄嗟にその着物の裾を掴み、引き止める。
「待ってください。私も、何かできませんか?」
「何もしなくていい。ここで待機する。それがお前の役目だ」
冷たく言い放たれたその言葉に、スイの心は折れそうになる。
――やっぱり、自分は何も出来ない出来損ないなのだと。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
「ど、どうして……いつも私を突き放すんですか。何も出来ないから、ですか? 私は、天狗様の役に一切立ちませんか? いない方が、楽ですか……?」
積もり積もった想いが、堰を切ったように溢れ出る。
震える声で吐き出された言葉に、天狗は思わず息を呑み、振り返った。
「ど、どうした、急に。俺は別に、そんなつもりじゃ――」
「それなら、どうしていつも突き放すような言い方をするんですか! 私は、貴方にとって邪魔な存在でしかないんですか!? この旅館には、不要だということですか!?」
「ま、待て。落ち着け、どうしたんだ、急に……」
「急じゃありません!! ずっと、思っていました! 私が失敗ばかりするから、役立たずだって判断して、奥に引っ込めているんだって……!」
泣きながら訴えるスイの姿に、天狗は言葉を失い、立ち尽くす。
スイは荒く涙を拭いながら、震える身体で言葉を続けた。
「私は、貴方たちあやかしみたいに特別な力はありません。母や父のように、正確な判断や指示も出せません。……何も出来ない、という評価は正しいと思います」
それでも、声を絞り出す。
「でも、私も旅館の経営者の一人です。何も出来ないままでいいなんて、思えません。だから、自分なりに頑張ろうとしたのに……“何もしないで”って言われると、悲しくて、経験も積めなくて……失敗ばかりの私が強く出ることも出来なくて……もう、どうすればいいのかわからないんです」
縋るように見上げるスイの瞳。
その問いに、天狗は答えられず、視線を逸らした。
――やっぱり、自分は役立たずなのだ。
スイが俯き、言葉を失いかけた、その時だった。
「――――きゃああっ!!」
廊下から、二口女の悲鳴が響く。
二人は同時に駆け出し、廊下へ飛び出した。
奥から、誰かが走ってくる音がする。
「――――二口女さん!?」
そこにいたのは、二口女。
だが、同時に、もう一人の二口女の姿も見えた。
「スイ様!! 玄様!! お逃げください!!」
叫ぶ本物の二口女の背後で、偽物の手には包丁が握られている。
「やば――」
「下がれ!」
天狗がスイを庇うように前へ出る。
本物の二口女は天狗の後ろに出た瞬間、追いかけていた偽物の腕を天狗は掴んだ。
投げ飛ばそうとした瞬間、その腕が急激に小さくなる。
「……っ!?」
次の瞬間、現れたのは無数の鬼火だった。
反応が遅れた天狗は、掴んでいた腕を離してしまう。
鬼火は包丁を持ち直し、今度はスイへと狙いを定めた。
「ひっ――!」
「二口女! 早くスイを逃がせ!!」
二口女は即座にスイの腕を掴み、走り出す。
「待ってください! 天狗様はまだ完全に回復していません! 一人残すのは――」
「私達では何も出来ません! 足手まといになるくらいなら、逃げた方がましです!」
「でも――」
言い返そうとした、その時。
二口女の“もう一つの口”が、勝手に開いた。
『おいおい、人間のお前に何が出来るってんだ。馬鹿も休み休み言え』
「あ……」
二口女は慌てて口を押さえるが、遅かった。
二口女のもう一つの口は、彼女の本音を勝手に話す。
それはスイもわかっており、だからこそ今の言葉がスイの言葉に突き刺さる。
スイの顔から、血の気が引く。
「……すいません。本当に、迷惑ばかりで……」
「そ、そんなことは……」
だが、再びもう一つの口が開く。
『こっちだって何も出来ねぇから逃げてんだろ。落ち込んでる暇があったら、さっさと走れ』
二口女は再び口を塞ぎ、冷たい表情で前を向く。
「……今は、足手まといにならないことを考えましょう」
「……はい」
引かれるまま走りながら、スイは歯を食いしばった。
――――天狗様、大丈夫でしょうか。
その時、ふと九尾の言葉が脳裏をよぎる。
『――出来ないなら、他の者を頼ればいい』
今は、立場など気にしている場合じゃない。
経営者だから一人でやらなければならないなど、言っていられない。
スイは、意を決して二口女の手を振りほどいた。
「っ、ど、どうしました?」
『お? 怒ったか?』
スイは気にせず、真っ直ぐに二口女を見据える。
「あの……二口女さん。ご協力を、お願いできますか?」
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