混乱
天狗が倒れた。
そのことは、スイの耳にも届いていた。
「スイ様! お待ちください!」
「でも、天狗様が!!」
「今は黒緋様と雪女が見ていますので大丈夫ですぅぅぅうう! 今はスイ様が冷静になってくださいぃぃぃい」
慌てて走り出したスイを、ろくろ首が必死に止める。
二口女も回復し、ろくろ首と同じようにスイを止めるため走ってきていた。
「スイ様、今は館内が混乱しています。お客様がいないとはいえ、まずは事態を落ち着かせることに尽力した方がよろしいかと!」
「…………そ、それも、そうですね」
スイは、天狗が倒れてしまったのは自分のせいだ。
そう思い、胸が苦しくなり、呼吸が荒くなる。
――――落ち着け、落ち着け。落ち着け、落ち着け、落ち着け。
「スイ様!!」
「はっ! す、すいません! 早くこの事態をどうにかします!」
「待ってください!」
すぐに走り出そうとしたスイの腕を、二口女が掴んだ。
「何ですか!?」
「落ち着いてください、スイ様。今は、すぐに動き出す時ではありません」
二口女の鋭い視線と硬い口調に、スイの頭に上っていた血がすっと引いていく。
「はぁ、はぁ……」
「視野を広く持ってください。私達も協力します。何でも一人で抱え込まないでください」
二口女がそう言うと、周囲にいるあやかし達も頷いた。
スイは辺りを見渡し、深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせる。
「す、すいません。私、冷静ではありませんでした」
「いえ。私達も玄様が倒れたことを、もう少し配慮してお伝えするべきでした。こちらこそ申し訳ありません」
「い、いえ……」
ようやく場の空気が落ち着き始めた、その時だった。
コツン、コツンと、廊下の奥から足音が響いてくる。
全員がそちらを見ると、闇の奥から黒い着物が現れた。
「――――え?」
徐々に近づくその姿を見て、スイは目を大きく見開いた。
闇から現れたのは、倒れているはずの天狗だったのだから。
「て、天狗様? なぜ、ここに……? もう目を覚ましたのですか?」
『…………』
問いかけても、返事はない。
二口女は先ほどの出来事を思い出し、スイを庇うように後ろへ下がらせた。
「ふ、二口女さん?」
「スイ様、この方は――偽物です」
「え……?」
改めて見ると、鴉の面を付けた天狗の瞳は水色に光っていた。
それだけで、スイは二口女の言葉を理解し、体が震える。
「あ、あなた……一体、誰なの?」
震える声で問いかけるが、天狗は答えない。
一歩、また一歩と近づいてくる。
距離を詰められ、スイ達は後ずさる。
だが、天狗は歩みを止めない。
どうすればいいのか考えた、その瞬間――天狗が襲いかかってきた。
「ひっ!?」
「逃げますよ!!」
二口女に手を引かれ、三人は反対側の廊下へと走り出した。
必死に逃げるが、背後の足音は消えない。
――――どうする、どうすればいいの!?
こんな状況で冷静に考えられるほど、スイはまだ経験を積んでいない。
二口女やろくろ首も思考がまとまらず、逃げるだけで精一杯だった。
当てもなく走っていると、前方から楽しげな笑い声が響いてきた。
『きゃはははははははは!!!』
その声に、二口女は嫌な予感を覚える。
笑い声が急速に近づいてくる。
二口女は足を止め、「端へ!」とスイとろくろ首に指示を出した。
直後、目に見えないほどの速さで何かが通り過ぎる。
「い、今のは!?」
「おそらく、遊んでいた捷疾鬼でしょう」
二口女が振り返ると、捷疾鬼が追ってきた天狗を押しのけるように廊下を駆け抜けていた。
衝突した様子はなく、天狗も寸前で身を翻し、避けたようだった。
だが今、天狗は床に膝をつき、捷疾鬼が去った方向を見つめている。
「――――いまだ」
すぐに起き上がり、三人は近くの部屋へと駆け込み、息を潜めた。
廊下からは、天狗が歩き回る足音が微かに聞こえてくる。
まるで悪夢のような空気に、スイは口を押さえ、声が漏れないよう必死に耐える。
二口女とろくろ首も同じように気配を殺し、天狗が立ち去るのを待った。
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