天狗……?
天狗が旅館に戻り、鴉の面を付ける。
こうすれば、自分の顔は誰にもわからない。
今、自分がどう思っているのか、誰にもわからない。
顔を隠すことによって、自分を隠せる。
そうすれば、自分を守れる。
「――――あっ、玄様。お早いですね? 何かありました?」
「いや、なにもありませんよ。少し早めに用事が終わっただけです」
すれ違った二口女にそう簡単に告げ、隣をすり抜けようとした。
だが、二口女が何かに気づいたのか、「玄様」と呼び止める。
「なんでしょうか」
「なにかありました?」
「いえ、ですので、なにもないと……」
「本当ですか?」
二口女の瞳が、天狗の奥まで見透かしているように鋭い。
奥の奥まで見られているような感覚に陥り、天狗の身体が震えた。
「先ほど、九尾様からご連絡がありました。今回のお客様は、玄様が苦手とする――サトリです」
その名前に、天狗は鴉の面の奥で大きく目を見開いた。
「いかがいたしますか?」
「…………ご指名しているのですか?」
「はい。いつも通り、天狗様をご指名です」
「そうか……」
サトリというあやかしは、人の気持ちを目で見ることが出来る。
人だけではなく、あやかしの気持ちも筒抜けで、簡単に見透かされる。
しかも、いたずら好き。
天狗の思考を読み、いたずらっぽく笑う。
子供っぽいサトリを、天狗はお客様の中でも苦手意識を持っていた。
「九尾様は、断るかどうかを玄様に聞いてくれと言っておりました。いかがいたしますか?」
「……………………いや、受け入れて構わない」
「本当ですか? サトリは悪いあやかしではないにしろ、今の不安定な妖癒旅館では、少し不安が残りませんか?」
二口女も、今の旅館については色々と考えていた。
今までは、天狗はもちろん、スイの両親の動きが早く的確だったため、安定して旅館経営が出来ていた。
今は、そんな軸となる二人がいない。
サトリといういたずら好きなあやかしを招き入れるのは、二口女ほど慣れていても、不安は消えない。
それは、後ろの方で掃除をしていたろくろ首と砂かけババァも同じ考えらしく、眉を下げ、不安そうに二人の会話に聞き耳を立てていた。
そんな三人の様子を見て、天狗は拳を握った。
「問題ありませんよ。今回のサトリは、私がお相手します。他の人たちには迷惑をかけないようにしますので、ご安心ください」
「ですが、天狗様もお疲れでしょう? 無理をし続けてしまえば、玄様のお体に障ります。それに、サトリ様は人の瘴気を無意識に奪ってしまう。一緒にいるだけでも疲労が溜まり、危険ですよ?」
「問題ありません」
「ですが……」
二口女は、今の天狗がいつも通りとは感じられず、どうしても心配になってしまう。
それでも天狗は「大丈夫」と言って聞かない。
二口女の立場ではどうすることも出来ず、「わかりました」と頷いた。
そのまま天狗はいなくなり、二口女はろくろ首達へと振り向いた。
「絶対に、大丈夫ではないですよね?」
「確実ですねぇ~。ひっひっひっ」
「まったく、なんであんなに自分を痛めつけるのか、本当に意味が分からないねぇ~」
ろくろ首も砂かけババァも、去って行く天狗の後ろ姿を見つめる。
その目は、心配そうに揺れている。
「まぁ、私達はただ、指示を受けてお客様をお出迎えするだけ。お客様も玄様を求めている今、何も出来ませんね」
「そうね」
「ひっひっひっ……」
三人で話していると、廊下の奥から一人の男性が歩いて来た。
その人物は、さっきいなくなったはずの天狗だった。
「おや? 玄様、どうしたのですか? 何か言い忘れたことでも?」
二口女が聞くが、天狗は何も聞こえていない様子だ。
「玄、さま?」
二口女が天狗のおかしな様子に再度声をかけると、急に両手が伸びてきた。
「げん――グッ!!」
「玄様!?」
「な、何をしているのですか!?」
突然、天狗が二口女の首を絞め始めた。
ろくろ首と砂かけババァが叫び、天狗の手を離させようとするが、びくともしない。
「玄様!!! 二口女が死んでしまいます!」
ろくろ首が涙ながらに叫ぶと、ドタドタと廊下を走る音が聞こえた。
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