鴉の面
「――――ん、あ、あれ」
スイは、いつの間にか布団の上で寝ていた。
見覚えのある天井、いつも感じている畳の匂い。
ここは、スイの部屋だ。
「私……。いつのまにか寝ていた……?」
目線を横にずらすと、見えたのは黒い着物。
見覚えがありすぎる着物に、スイは目を見開く。
ガタガタと上体を起こすと、そこには鴉の面を付けている天狗が座っていた。
――――ヒッ!!
声に出さずに悲鳴を上げる。
――――怒られる怒られる怒られる!!!
そう思いながらビビっていると、天狗が動かないのが不思議に思えた。
――――あ、あれ?
不思議に思い顔を近づかせてみると、寝息が聞こえた。
「ね、寝てる?」
思わずポロッと言葉が漏れた。
瞬間、ピクッと天狗の身体が動いた。
鴉の面の隙間から覗く、黒い瞳。
スイは、初めて天狗と目が合った。
黒く、綺麗な瞳。
スイが思わず見入っていると、逆に天狗が驚き、慌てた様子で後ろに跳ぶように下がった。
その時だった。
鴉の面が外れやすくなっていたのか、動いた反動で鴉の面が外れてしまった。
――――カラン
畳に、鴉の面が落ちる。
スイは思わず、天狗の素顔を見てしまった。
色白の肌、黒い瞳。
頬には、昔についたのであろう横一線の傷。
「て、天狗様?」
「っ!」
鴉の面が外れたことにすぐ対応できなかった天狗は、スイに呼びかけられてようやく体が動いた。
バッと素早く袖で顔を隠し、後ろを向いてしまう。
「て、天狗様? あの……」
「お前は何も見ていないな? 本当に、なにも、見ていないよな?」
手探りで鴉の面を拾おうとしながら、天狗はそう言う。
だが、肝心の面はスイが咄嗟に拾ってしまっていたため、畳を探してもあるはずがない。
それでも、天狗の手は畳をさまよう。
その様子に、スイは思わずクスクスと笑った。
「何を笑っている。馬鹿にしているのか?」
「いえ、少し可愛いと思っただけですよ。それに、鴉の面は私の手にあるので、畳を探しても意味はありませんよ」
スイにそう言われ、天狗の手はピタリと止まる。
肩越しに視線だけを向け、スイを睨みつけた。
「返せ」
「怖い怖い怖い怖い!!」
殺気を感じ、生存本能からスイはすぐに鴉の面を返した。
風のような速さで奪い取られ、天狗はいつものように鴉の面を顔につける。
少し位置を調整した後、くるりとスイの方を向いた。
「何を笑ってやがる」
「すいませんすいませんすいません!!」
鴉の面をしているにもかかわらず、スイの目には般若のような顔が見え、思わず土下座。
ビクビクと震えていると、天狗は腕を組み、はぁぁぁぁぁと深いため息を吐いた。
「まぁ、見られたからといって、なにかあるわけではないが」
「そ、そうなんですか? なら、なぜ隠しているんですか?」
聞いてから、スイは自分の失態に気づく。
この旅館のルールの一つに、天狗の鴉の面について聞いてはいけない、というものがある。
過去、軽はずみでそれを聞いたあやかしが、大惨事を引き起こしたと聞いていた。
冷や汗を流しながら、「す、すいませんでした……」と、震えながら頭を下げる。
恐怖で顔を上げられずにいると、天狗はまた深いため息を吐いた。
「そこまで怯えなくてもいい。過去の話だ。今は、力の制御もできている」
「ほ、本当ですか?」
「本当だ。仮に嘘なら、もう大惨事が起きている」
スイはようやく納得し、ゆっくり顔を上げた。
「……では、その質問の答えは……」
「大惨事が起きないとわかった瞬間、聞いてくるのか。お前、現金すぎるだろ……」
呆れたように頭を押さえる天狗。
「で、でも……かっこよかったですよ? 頬の傷も、その……」
天狗はしばらく唸ったあと、顔を上げた。
「理由は、まだ話さん」
「ですよねぇ……」
少し残念そうにしつつも、スイは頷いた。
「体は大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
その後の叱責に、スイはただ俯く。
「…………だが、また目を覚ましてくれてよかった」
「え?」
鴉の面越しでもわかる、安堵。
「今日は休め。部屋から出るな」
そう言って、天狗は部屋を出て行った。
「――――今回も私は、何も出来なかった」
そう呟き、スイは涙をこぼしながら目を閉じた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!
出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ




