夢
スイは、目を覚ました。真っ暗な空間で。
『こ、ここは?』
周りを見回しても、何もない。
天井も、床も、壁も。
なにもない空間に、スイは戸惑う。
『夢の、なか?』
なんとなく、そう感じた。
すると、真っ暗な空間に淡い光が降り注ぐ。
見ていると、雨が降り注ぐ森の中が映し出された。
『な、なにこれ』
よく見ていると、背中に黒い羽を生やしている一人の少年が、木の近くに立っていた。
耳が隠れるくらいの黒髪に、山伏の服を着ている。
唖然としながら見続けていると、その少年は振り返った。
その目は、闇のように黒い。
『えっ。なに、あの目』
振り返った少年の目に、スイは思わず体を震わせる。
その目は、殺気が含まれているわけではない。それなのに、体が自然と震えてしまうほどの恐怖を感じる。
復讐? 恨み?
――違う。
まるで、後悔しているような視線。
『あ、あれって……』
少年の手は、赤く染まっている。
その奥の地面も、赤い。
よくよく見てみると、なにかが倒れていた。
『あれって、天狗??』
背中に黒い羽を生やし、山伏の服を着た大人サイズの天狗が、少年の奥に倒れている。
しかも、その周囲の地面は赤く染まっていた。
状況だけを見ると、少年が大人の天狗を殺したように見える。
この少年は、誰?
この少年は、何を考えているの?
この少年は、一体何をしていたの?
スイの疑問が胸を占める中、少年はまたくるりと振り返る。
すると、森の奥から人影が現れ始めた。
『――――ひっ!?』
奥から、手に錫杖を持った大量の天狗が現れた。
全員が、少年を見つめている。
その天狗たちを見上げ、少年は腰を落とした。
――――まさか、戦うつもり!?
そう思った瞬間、少年は地面を蹴り、駆け出した。
『駄目!!!』
咄嗟に叫ぶと同時に、視界を遮るほどの突風が空から舞い上がり、思わず目を閉じた。
次に目を開けると、映像は明るい昼間の公園に切り替わっていた。
『な、なに? あっ、子供たちが一つに集まってる……』
いきなり現れた公園と、子供たちの姿。
地面はないはずなのに、足を前に出すと、子供たちに近づいていった。
そのまま近づき、子供たちが何をしているのか上から覗き込む。
すると、中央には弱った鴉が一匹、項垂れていた。
子供たちは、そんな鴉をいじめて楽しんでいる。
『だ、だめ!! 何やっているの!!』
止めようと手を伸ばすが、スカッと子供たちの身体をすり抜ける。
声も届いていない。
ただただ、いじめられている鴉を見届けるしか出来なかった。
『こ、これって……』
何が起きているのかわからない。
困惑していると、子供たちの親であろう大人たちが公園の中に入ってきた。
『何をしているの? って、きったな!! 何をしているの! 駄目でしょ!!』
子供たちに怒鳴り、鴉を放置したまま、大人たちは去っていく。
弱っている鴉は、周りから人がいなくなったことを確認し、よろよろと立ち上がった。
『だ、大丈夫?』
声は聞こえていないし、自分の存在はこの映像の中には存在していない。
それでも、気になってしまい、声をかける。
鴉は、黒い瞳を公園の出入り口に向けていた。
何を考えているのか、何を思っているのか。スイにはわからない。
でも、その瞳に込められているのが憎悪だということは、なんとなく察することが出来た。
手を伸ばしかけた時、鴉が急に光り出す。
『な、なに!?』
目を覆っていると、光は徐々に落ち着いていった。
ゆっくりと目を開くと、そこには先ほど森の中で大人たちに囲まれていた少年が立っていた。
『――――え?』
何が起きたのか理解できないまま唖然としていると、少年が振り向いた。
スイと目が合うはずはない。けれど、合ったような気がした。
その目は、鴉の姿の時とは比べものにならないほど、恨みが込められている。
何も言えずにいると、少年は黒い翼を大きく広げた。
『ま、待って!!』
スイが叫ぶが、その声は届かない。
少年はそのまま空高く跳び、姿を消してしまった。
『い、今のって――――』
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