何も出来ない
「人間は、めんどくさいなぁ。いや、あやかしも一緒か」
「めんどくさくてすいません」
「ちなみにだが、我にも出来ないことの一つや二つはあるぞ」
「え? それは私を慰めるための言葉ですか?」
スイは目線だけを上げ、九尾を見た。
「慰める言葉でもあるぞ。隣で弱音を吐かれ続けられたら、たまったもんじゃないからなぁ」
「…………いなくなります」
「まぁ、待て。話くらい聞け」
「ぐえっ!」
今すぐいなくなろうとしたスイの首根っこを掴み、強制的に座らせた。
「我の出来ないことなぁ。まず、料理は無理だな。あと、人に気を遣うこともめんどくさくてやってられん。あとは、掃除洗濯、そういうものも苦手だ」
「そ、そうなんですね……?」
「そうだ。だが、それで困ったことはない。やろうとしていないからな」
「まぁ、それはやらなくていいでしょう。他の人がやるので……」
なぜそんな話を聞かされているのだろうと思いながら、スイは適当に相槌を打つ。
「そうだろう? 他の奴がいるから、我はやらなくていいのだ。お前も一緒だろう」
「え?」
「何でもかんでも自分でやろうとするから、そうやって失敗して落ち込む。苦手なこと、出来ないことを無理にやろうとするから、逆に周りに迷惑をかけるのだ」
九尾の赤い瞳と目が合った。
「出来ないのであれば、他の奴を頼る。それでいいのではないのかい?」
「でも、私は経営者の一人。両親が出来ていたのに、私は――……」
言い切る前に、人差し指で口を抑えられ、スイは何も言えなくなった。
「出来ないから、今のように失敗して落ち込むのだろう? なぜ、それがわからぬのだ、嬢ちゃんや」
顔を近づけられ、圧のある声で言われ、スイは何も言えなくなる。
すぐに離れたが、スイは言葉を失ったままだ。
「よく自分の両親と比較する言葉が出るが、あやつらも、よく我々あやかしをこき使っていたぞ」
「っ、え? こき使っていた?」
初耳だったため、スイはきょとんと目を丸くした。
「今回の場合なら、雪女に頼み、温度を少しでも下げさせる。ろくろ首に頼み、奥を確認させる。砂かけババァの砂でパイプを抑え、一番安全な場所を自分が通り、鬼火を落ち着かせる。他にも色々していたであろう」
スイの両親を思い出しながら、九尾はうんうんと腕を組み言葉を続けた。
「嬢ちゃんは自分で何でもしようとしているが、両親はあやかしの特徴をしっかり把握し、それを使って経営していた。その違いが、今回大きく出たのではないかい?」
九尾の言葉に、スイは目から鱗が落ちたような表情になる。
「え、で、でも、両親は何でも自分たちで解決策を……」
「解決策は出していたし、指示も的確だった。だが、こき使っていたことには変わりない。お前には、それが足りん。人間の出来ることは少ないのだから、出来る者を頼るのも、経営者になるためには必要なことではないのかい?」
めんどくさいと言いながらも、九尾は言葉を続けた。
「まぁ、まだまだ嬢ちゃんのお主には難しいと思うがなぁ。もう少し、今までと同じ日々を過ごしてもいいのではないかい?」
「今までと、同じ?」
「あやかしたちと仲良く、楽しく旅館を駆け回っていればよいだろう。そうすれば、それぞれの性格や得意なこと、出来ることなどを把握できる。そうなれば、指示ももっと的確になるだろう。特に、玄とかな」
「て、天狗様?」
なぜここで天狗の名前が出たのかわからず、スイは首を傾げる。
九尾は深い溜息を吐いた。
「嬢ちゃん、天狗がどんな奴で、どんな性格で、どんなことが出来て、どんなふうに育ってきたか。何も知らんだろう」
「は、はい。天狗様、私には厳しいので」
「なぜ厳しいのか、考えたことはあるかい?」
「それは、私のことが嫌いだからで……」
「なら、なぜ嫌いになったと思う?」
「それは……私が最初に失敗して、不快な思いをさせてしまったからで……」
スイの言葉に、九尾はさらに問いを重ねる。
「だが、他の奴らも失敗だの、大きな事態など起こしているだろう。あやかしなのだから、それは仕方のないことだ。そんなことで玄が人を嫌いになると思うかい? そんな薄情だと思うかい?」
「そ、それは……」
「それに、仮に嫌いだったとして、天狗はなぜ今回、お前さんを助けにボイラー室へ行ったと思う?」
「え?」
「しかも、焦りながら、な」
それはスイも初耳だった。
助けに来たことは覚えている。
だが、焦りながら?
困惑するスイを見て、九尾はクックックッと笑った。
「もっと天狗を怖がらず、コミュニケーションを取ってみるが良い。違った視点が見られるかもしれぬぞ。あと、自分で何でもしようとするな。そうなれば共倒れになる。話は以上だ。さっさと行け」
九尾はそれ以上何も言わないと、視線を鬼火に戻した。
スイはまだ困惑していたが、ここに留まる理由もなくなった。
「ありがとうございました」
そう言って、その場を後にする。
ボイラー室を出ると、ちょうど話題に上がっていた天狗と鉢合わせた。
「やばっ」
思わず表情に出てしまい、天狗は腕を組み、不機嫌さを露わにする。
「お前……」
「す、すいません……」
咄嗟に謝るが、それだけで怒りが収まるはずもない。
冷や汗が流れ、どんな苦言を言われるのか想像もつかない。
恐怖で震えていると、天狗は深く溜息を吐いた。
次の瞬間、スイの顎に手を添え、目を合わせる。
「な、何ですか?」
「…………顔色が悪いな。まぁ、当然か」
「あっ、いえ、それは……」
怖いからです、とは言えず、スイは気まずそうに視線を逸らした。
「完治していないのであれば説教は後だ。今は早く部屋に戻れ」
それだけ言うと、天狗は去ろうとする。
スイは「あっ」と、服を掴もうと手を伸ばした。
だが、掴めなかった。
天狗はそのまま、廊下の奥へと消えてしまった。
「――――やっぱり、私のことが嫌いなんだよ、天狗様は……。役に立たない、失敗ばかりの私を……」
胸をぎゅっと掴み、その場に蹲る。
もう、前に進めない。
今回の強行突破も、結局は天狗に迷惑をかけて終わった。
何も出来ない、役立たず。
みんなに迷惑をかけるだけの存在。
そう思うと、スイの体から力が抜ける。
立ち上がれない。動けない。
そのままスイは、廊下に倒れ込んでしまった。
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