違い
「鬼火さん!!」
再度叫ぶと、喉の痛みで咳き込む。
涙で視界が滲んだ。
「――――私の声が、聞こえてないんだ」
癇癪を起こしている鬼火には、普通に声をかけても、届かない。
近くで声をかけても言葉が伝わらず、泣き止ませるのは非常に困難なのだ。
――――もっと近づかないと。でも、これ以上近づいてしまえば……。
スイは、自分の身体の限界を感じていた。
これ以上暑くなれば、その場で倒れてしまうかもしれない。
もしかしたら、死んでしまう。
スイは少しだけ悩んだが、すぐに決意を固め、足を前へと進めた。
「鬼火さんも、辛いんだから。私だって……」
癇癪とは、感情がうまくコントロールできない時に起こる行動だと、スイはいつしか聞いたことがあった。
感情のコントロールは、大人くらいになっていけば少しずつできるようになってくる。
けれど、大人になったとしても、感情を抑えられずに辛い思いをしている人たちは、必ず存在する。
そんな人たちを、スイは旅館でたくさん見てきた。
苦しい、辛い。
そんな感情を目の当たりにしてきたスイは、鬼火たちを何とかして救い出したかった。
それでも、この暑さは人間であるスイにはかなりきついものだ。
気を抜けば今にも倒れてしまい、意識を失ってしまう。
「――――あっつ!!!」
火の粉がもろに手にかかり、鋭い痛みが走る。
見ると、皮膚が少し焼けてしまっていた。
息もできなくなってきた。
けれど、ようやく鬼火たちの姿を確認できた。
「鬼火、さん!」
声をかけても、やはり聞こえていない。
三体の鬼火は全員、涙を流し、癇癪を起こしていた。
その場で泣きじゃくる鬼火たちを見て、スイは早くどうにかしなければと気が焦る。
その瞬間、熱に負けたパイプが上から降り注いだ。
すぐに上を向いて気づいたが、体が動かない。
――――やばい、潰される。
迫るパイプを見ていることしかできない。
潰される――そう思い、衝撃に備えるように目をつぶった。
刹那、腕を引っ張られ、後ろへと倒れ込んだ。
――――ガラン!
パイプが床に落ちる。
その音に驚き、一瞬だけ鬼火たちの泣き声が止まった。
だが、またすぐに怯え、泣き出してしまう。
何が起きたのかわからないまま、スイは体を起こした。
「な、なにが……」
状況を理解できないまま体を起こすと、口元に冷たいタオルが当てられた。
横を見ると、視界に入ったのは鴉の面。
「お前は、一体何をしているんだ!!」
「ひっ!!」
スイの腕を引っ張ったのは、ろくろ首から事情を聞いた天狗だった。
大きな声を出され、スイは恐怖で肩をガタガタと震わせる。
「て、天狗様……なんで、ここに……」
「しゃべるな。ここからは俺がやる。早く戻れ」
そう言うと、天狗は立ち上がる。
頭に手を置かれた瞬間、ひんやりとした冷たい感覚に、スイは見上げた。
「――――早く、帰れ」
今度こそ天狗はスイから離れ、鬼火たちへと近づいていく。
人間のスイには、絶対に近づけない領域へ、簡単に足を踏み入れていく天狗。
それが、スイと天狗の大きな違い。
人間とあやかしの、埋められない距離。
天狗はいともたやすく鬼火たちの元へ行き、あやすように三体を抱き上げた。
最初は泣いていた鬼火たちも、抱き上げられたことで安心したのか、徐々に泣き声が落ち着いていく。
室内の温度も、ゆっくりと下がり始めた。
「お前たちは、よく頑張っている。今は、ゆっくり休め」
一体ずつ頭を優しく撫でると、鬼火たちは安心したように目を閉じた。
まだ完全に安全とは言えないが、下がり始めた室温に、スイは安堵の息を漏らす。
「良かった――あ、あれ?」
「っ、おい!」
天狗の声が聞こえる。
けれど、それは徐々に遠ざかり、視界もかすんでいく。
体が急に重くなり、瞼が落ちる。
そのまま床に倒れ、スイは意識を失った。
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