日常トラブル
もう、他のあやかしたちは玄関でお出迎えの準備をしていた。
その中にはもちろん、天狗もいる。
影から見ていたスイは、天狗がいることに少し怖気づく。
足が微かに震え、あと一歩が踏み出せない。
そんな時、天狗と話していた二口女と一瞬だけ目が合った。
笑みを浮かべ、頷く。
大丈夫、そう言われているような表情を向けられ、震えていたスイの体が落ち着いた。
気持ちが整い、スイは深呼吸をした。
「――――よしっ」
気合を入れ、ここからは時間と気合の勝負。
影から出て、あやかしたちの輪に入る。
その時、天狗もスイを見つけ、ひどく驚いた。
「おまっ――……」
「天狗様、もう少しだけ調整を」
「あ、いや……」
天狗がすぐにスイへ近づこうとしたため、二口女がさりげなく制止する。
スイ以外には強く出られない天狗は、たじろぐばかりだ。
だが、二口女以外のあやかしたちも、スイが来ることは聞いていない。
天狗と同じように驚き、堂々と立つスイを見ていた。
「――――今日は、私もお客様のお出迎えをさせていただきます。至らない点は多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」
戸惑うあやかしたちに、上品に腰を折り、頭を下げる。
凛とした立ち居振る舞いを前に、戸惑いながらも、あやかしたちはスイの言葉に応えるように頭を下げた。
ここまで進んでしまえば、天狗はもう何も言えない。
頭を押さえ、二口女を睨む。
「二口女さん、何かご存じですよね?」
「いえ、私は知りませんよ。ただ、玄様と確認していたら、スイ様がいらしただけです」
ニコッと微笑み、誤魔化すように言うが、もう天狗にはばれている。
いや、二口女はそもそも、今回の件をスイ一人にすべての責任を負わせるつもりは毛頭なかった。
だが、上司の言うことには従わなければならない。
だから口では、言われた通りのことを口にする。
二口女の思惑を、スイは知らない。
そのため、この後のことを考えると、ものすごく怖い。
それでも、もうここまで来た。
そう思い、スイは自分の定位置である中央に座った。
「お客様が来ます。皆さま、定位置にお着きください」
スイの真っすぐな言葉に、皆それぞれ自分の定位置に着く。
二口女は一番後ろにいる天狗の座りに席を付いた。
「お客様のおなりですー」
玄関の上に飾られている提灯は、提灯お化け。
いつもお客様が来たタイミングを知らせてくれる。
今回も知らせてくれ、スイの身体に力が入る。
緊張で顔がこわばり、床に置いた手が微かに震えていた。
――――駄目。ここで負けては、駄目。
そんなスイの背中を、天狗は見ていた。
鴉の面の奥に潜む漆黒の瞳が、微かに揺らぐ。
何か言いたいが何も言えず、すぐにお客様である猫又家族が玄関へとやってきた。
「「「いらっしゃいませ」」」
皆で声を合わせ、お客様を出迎える。
「いらっしゃいませ、お客様。長旅でお疲れでしょう。お部屋へご案内いたします」
スイが立ち上がり、一番前にいたご婦人に声をかける。
以前来た猫又家族と同じ顔、同じ空気感。
思わず、以前の記憶が頭をよぎり、スイの表情がこわばる。
だがすぐに、天狗が静かに右手を差し出し、ご婦人の手から荷物を受け取った。
「では、ここからは私がお部屋へご案内いたします。足元にお気を付けください」
「あら、ありがとうねぇ」
以前の猫又家族のご婦人は見せなかった、優しい笑み。
その後ろを、娘の静稀が子どものような表情でついて行く。
「お母さん! この旅館、素敵だね! 綺麗だし、自然も豊か! 私、外を猫の姿で駆け回りたい!」
「こら、静稀。まずは荷物を置いて温泉よ。その後にたくさん遊びましょう」
「わかった! お父さんも一緒だからね!」
「はいはい」
そんな会話を廊下に響かせ、猫又家族は天狗について行く。
その後ろ姿を見届けることしかできない自分に、悔しさが込み上げる。
スイは拳を握り、頬をパンッと叩いた。
「な、何をしているのですか、スイ様?」
「なんでもありません。気合を入れ直しただけです。では、私たちはお客様にご不便がないよう動きます」
スイが言い切ると、あやかしたちもそれぞれ動き出す。
先ほど、ご婦人は温泉に行くと言っていた。
部屋に荷物を置き、少し休めば、お風呂へ直行だろう。
そう思い、スイは温泉の方へ向かい、中を確認した。
そこには、垢嘗めが最後の点検をしている姿があった。
「垢嘗めさん、こんにちは。温泉は問題ありませんか?」
「…………」
声をかけられ、垢嘗めの肩が震えた。
驚かせてしまったと、スイは謝りながら近づく。
「どうでしょうか、温泉はもう入れますか? ――――って、あ、あれ?」
湯船を見て、スイは首を傾げる。
「なんだか、湯気がすごく上がっていませんか?」
そう言いながら手を伸ばし、湯に触れた瞬間、スイはすぐに引き抜き、目を見開いた。
「あっつい!! お風呂、温度は何度ですか!?」
慌てて叫ぶと、垢嘗めが温度計を持ってくる。
すぐに測ると、再び驚愕した。
「――――百度、超えてる??」
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