強行突破
「――――このままじゃ、成長できない」
いつもなら天狗に言われたまま部屋に引きこもり、お客様の前に姿を現さないようにする。
だが、今日のスイは違う。
「多分、天狗様は私が迷惑をかけることが本当に嫌なんだ。それなら、迷惑をかけないとわからせればいい」
何をしても迷惑をかけるとは思う。けれど、このまま引き下がっていては、今までと何も変わらない。
スイは、今までの安定した妖癒旅館を取り戻したい。
その気持ちを胸に、スイは決意を固めた。
「――――スイ様! 温泉の準備が整いました!」
「わかりました、ありがとうございます! 次は――……」
スイは再び指示を出し、準備を再開する。
動いていると、時間はあっという間に過ぎていく。
お出迎え要員は、時間が迫ってきたため、御召し物の準備を始める。
そんな時だった。
スイは、一番話しやすい二口女に声をかけた。
「あ、あの、二口女さん」
「はい、何でしょうか」
部屋に入ろうとしていた二口女を引き止め、スイは彼女の目を見て話した。
「私も今回、お出迎えしようと思っているのです。なので、お召し物をお借りできませんか?」
「――――え? お出迎えって、今回のお客様をですか?」
頷くと、二口女は驚愕したように目を見開く。
驚くのも無理はないと思いながら、スイは再度頷いた。
「ですが、玄様からは、そんなこと一言も……」
「はい、内緒で出ようと思って」
「で、ですが、お出迎えの際は、玄様もご一緒ですよ? その時に、もうばれてしまうのではないでしょうか」
天狗はいつも、女将とともにお客様をお出迎えしている。
そのため、スイがお出迎えをすれば、必ずそこでばれてしまう。
それを聞くと、スイはニヤリと笑った。
「わかっています。ですが、さすがの天狗様もお客様の前では何もできないはずです。その後、すごく怒られてしまうかもしれませんが、私だってこの旅館の経営者の一人です。もう、何もせず部屋で時間を持て余すのは嫌なんです」
スイは、二口女に迷いなく言い切った。
その目の中に潜む決意を見た二口女は、いつしか一人の女性を思い浮かべていた。
――――二口女さん。私は絶対にこの旅館をもっともっと、繁盛させたいの。何をしてでも、私は絶対に。
そう、二口女は、ある女性からそう言われていた。
その目と口調、決意の表し方が、あまりにも似ている。
「あの、二口女さん?」
「あっ、わ、わかりました。では、今回は私もスイ様にご協力いたします」
「あ、ありがとうございます!!」
スイの呼びかけで現実に引き戻された二口女は、慌てた様子で頷いた。
「あ、で、でも。今回の件は、何も知らないで通してください」
「え? と、いいますと?」
スイからの追加の説明に、二口女はきょとんと目を丸くする。
「もし、私に協力したと言ってしまえば、二口女さんも天狗様に怒られてしまいます。なので、何を聞かれても知らぬ存ぜぬで突き通してください。絶対です」
「わ、わかりました」
困惑しつつも、二口女はスイの圧に負けて頷いた。
その返事に満足し、「よろしくお願いします」と腰を折って頭を下げる。
すぐに部屋へ戻り、スイは最初の頃にもらっていたお出迎え用の着物に着替える。
白に近い薄緑に、菊がちりばめられている。
これは、母がスイのために作ってくれたお気に入りだ。
だが、天狗にお出迎えをするなと言われてから、一度も着ていなかった。
ずっと、しまい込んでいた。
「これ、少しは風に当てておけばよかった」
触り心地や匂いに問題がないことを確認する。
広げると、控えめだが華やか――そんな印象を与える柄の着物だ。
スイの目は自然と輝き、口元が緩む。
だが、すぐに気を取り直し、首をぶんぶんと振った。
「今回は、勝負だ。絶対に、失敗は許されない」
今回のような強行突破の作戦は、一度でも失敗すれば、すべてが総崩れになる恐れがある。
そのため、スイの顔には緊張の色が滲んでいた。
そんな時、慌ただしい足音がスイの部屋に近づいてくる。
立ち止まったかと思うと、聞こえてきたのは、先ほど別れたばかりの二口女の声だった。
『スイ様、もうそろそろお客様がお見えです。準備をお急ぎください』
「あ、ありがとうございます!」
急がなければ間に合わない。
すぐに着物を身にまとうと、思っていた以上にスムーズに袖へ腕が通った。
「これ、本当に私にぴったり」
他の誰でもない、スイのために作られた着物。
それを着た瞬間に実感し、スイは小さく笑みを浮かべる。
「――――気を、引き締めよう」
パンッと頬を叩き、すぐに廊下へと飛び出した。
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