知ってしまった感情
「おやぁ? どうしたんですか? あぁ、私のお宝達を見て驚いてしまいましたか?」
マネキンを一つ手に取ると、ろくろ首はいきなり頬ずりし始める。
目はハートになっており、本当に大事にしているのがわかり、スイは複雑な気持ちになっていた。
「あ、あのぉ……」
「おやぁ、すいません。マネキンちゃんを見てしまうと、つい集中してしまいましてねぇ~」
手に持っていた、頭が割れているマネキンを畳に置き、テーブル付近に座布団を置く。
「こちらにどーぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「お茶も準備しましょうかぁ~」
そう言いながらろくろ首は、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、ポットに注ぐ。
温まるまでの数分、スイにとっては重たい空気だった。
ポットの前で待っているろくろ首に声をかけていいのかわからず、かといって周りを見回せば怖いマネキンの山。
目が合いそうになり、そっと逸らしてしまう。
だが、逸らした先にもマネキンがいる。
目が合ってしまい、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げ、自分の膝へと視線を落とした。
「そんなに怖がらないでください。その子達は動きません。私達あやかしの方が、珍しいのですよ」
ニコッと、ろくろ首は優しく微笑み、スイに伝えた。
「す、すいません。あの、怖がっているのではなく、その……」
「ひっひっひっ。大丈夫ですよ。怖いですよね? 視線が至る所から感じるでしょう?」
「うっ。す、すいません……」
人の好きな物を怖がるなんて失礼すぎると思いつつも、ろくろ首も気づいているため、ここで変に嘘を言っても逆に傷つけてしまうかもしれない。
スイは項垂れながらも頷く。
すると、ポットがピーーという、お湯が沸いた知らせの音を響かせた。
「私、寂しがり屋なんですよぉ~」
「寂しがり屋、ですか?」
「はぁ~い」
そう言いながらコップに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。
湯気の立つコップを二つお盆に乗せ、テーブルに置いた。
「私、この世に生まれ出た時から、ずっと一人だったのですよぉ~。まぁ、あやかしなんで、それが普通なんですけどねぇ~」
ろくろ首は席に座り、視線を下げながら話を続ける。
「私は、首を伸ばさなければ人間と間違えてしまう容姿をしているではないですかぁ~」
「た、確かに……」
「だから、知らない人は私と話してくれていたんですよぉ~」
――――それと寂しがり屋って、なにか関係があるのかなぁ。
スイはいまだに話の意図が読めず、困惑していた。
「その時に、人の温もりを知って、人と話す楽しさを知って。私は、人間と関わるのが楽しくて仕方がなくなってしまったのです」
「そ、そうなんですね」
「ですが、夜になるとあやかしの力は増幅します。それに伴い、勝手に首も伸びて、ろくろ首という正体を自然と明かしてしまうのです」
そこで一拍置き、再度口を開いた。
「そうなると、どうなるかわかりますか?」
「え、えぇっと、怖がらせてしまった……ですか?」
「そうです。人間は怖がり、私から離れていってしまいました」
近くに置かれているマネキンを膝の上に乗せ、頭を撫でる。
「私はもう、楽しい、温かいを知ってしまったのです。だから、諦めずに人間の姿を保てるよう頑張りました。ですが、やはり夜になると力が増幅し、首が伸びてしまうのです。それで、一人になってしまったのですよ」
悲しげに目を細めつつも、口元は笑っている。
おそらく、口角を上げることが癖になっており、悲しくても笑ってしまうのだろう。
「知ってしまった感情というものは、時に悲しいもので。私は、寂しがり屋になってしまったのですよ。人と話したい、人と遊びたい。――――誰でもいいから、私の心の穴を埋めてほしい。そう、感じてしまったのです」
初めて聞いたろくろ首の過去に、スイはなんと声をかければいいのかわからなくなってしまった。
スイは、人と話せるのが当たり前の環境で育った。
親に守られ、あやかしに囲まれ。
自分は、寂しいと感じる時はあまりなかった。
でも、ろくろ首は違う。
あやかしだということがばれてしまい、一人になる。
もともと一人でずっと過ごせていたら、持たなかった感情だ。
一度でも関わってしまったら、心の中にその温もりは残ってしまう。
そして、縋ってしまう。
スイは俯き、膝にのせている拳を握った。
「――――そんな時、九尾様が私を見つけ、妖癒旅館に連れてきてくださったのです」
「え、そんな経緯だったのですか!?」
「はぁーい」
さっきまでの悲しげな笑みではなく、優しい笑みを浮かべて頷く。
「そこからは、私にとって本当に素敵な日々でした。たくさんのあやかしと話ができて、ここにいる人間も優しく、楽しかったです」
「そ、そうなんですね」
「はい。ですが、やはり寂しさというものは、そう簡単に紛れてはくれなかったんです。そんな時、カナ様とシイ様が、私にこれをくれたんですよぉ~」
そう言いながら、膝に乗せていたマネキンの頭を見せた。
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