マネキン
部屋に戻り、いつものようにかわいらしいノートを開いた。
だが、今日は特に両親について聞けた話はない。
噂の話でもちきりとなってしまい、スイは一人でため息を吐いた。
「なんだか、空回っているような気がする……」
――――天狗様の言う通りなのかなぁ。
私が何もしない方が事が進む。私は、役立たず……。
「だめだめ。そんなことを思っていても意味はないんだから!」
――――それに、聞き込み調査については天狗様も何も言わない。つまり、それに関しては一人で空回っているわけではないはず!
そう自分に言い聞かせつつ、スイは噂について悩み出す。
「噂、どういうことなんだろう……」
今、どこまで噂が広まってしまっているのか。
噂がどこまで大きくなってしまっているのか。
天狗の言う通り、あやかし達が幽霊に驚いたり、恐怖を感じるということはないだろう。
それでも、日常に何かが侵食しているのは、今の段階でも明らかだ。
なにか早めに手を打たないと、この小さな事件が大きく変化してしまうかもしれない。
そう思うと、スイは居ても立ってもいられない。
それでも、天狗に動くなと言われているため、スイは聞き込み調査以外、何もできない。
ムズムズした気持ちのまま、布団を畳の上に敷き、横になった。
天井を見上げ、噂について考え込む。
「――――何か私にも、天狗様のためにできること、ないかなぁ」
※
考えているうちに、そのまま眠ってしまったスイは、起きた時に絶望していた。
「まさか、考えたまま寝てしまうなんて……。結局、いい案は思いつかなかったし……」
布団の上で頭を抱えていたスイだが、すぐに気を取り直し、顔を上げた。
「と、とりあえず。私は頭より体を動かす方が得意。それなら、聞き込み調査は続けていこう」
部屋の中で悶々と考えていても仕方がないと気を取り直し、スイは気合を入れ直した。
布団を畳み、身支度を整え、廊下に出た。
もう、他のあやかしたちは動き始めていた。
今日は出遅れてしまい、スイは慌てて廊下を駆けだし、掃除をしているろくろ首さんへと駆け寄った。
「おはようございます!」
「ひっひっひっ、おはようございます、スイ様。今日も天気がいいですよ」
今は掃除をしているため、廊下に備え付けられている窓を開けていた。
そこから涼しい風が入ってきて、心地よい。
陽光も差し込み、廊下が明るい。
ろくろ首の言う通り、天気は良さそうだ。
「確かに、今日も天気がよさそうですね。もし、お客様が来てくだされば、外をご案内したいくらい」
窓から入ってくる風が、スイの髪を揺らす。
その時に見えた彼女の表情に違和感を覚え、ろくろ首は手に持っていた雑巾をバケツの中に入れ、白いエプロンで手を拭いた。
「スイ様。なにか、お悩みがありますか? 私でよければ、お話を聞きますよ。ひっひっひっ」
「え? な、なんでですか?」
まさか、ろくろ首にそんなことを言われるとは思っておらず、スイは目を丸くする。
「視線が、なんとなく泳いでおりましたので」
「そ、そうだったんですね……」
スイは気づかれたことに恥ずかしく思い、思わず顔を隠してしまう。
「それで、お時間はありますか?」
「は、はい。私はあるのですが、ろくろ首さんはあるんですか?」
「今日は時間に余裕があります。なので、お話してくれたら嬉しいです。ひっひっひっ」
笑い方が独特なため、何か企んでいるのではないかと思わず考えてしまう。
けれど、これがろくろ首のデフォだということは理解している。
苦笑いを浮かべながらも、スイはろくろ首の後ろをついて行く。
「私の部屋でも大丈夫でしょうかぁ?」
「は、はい。私は大丈夫ですが、ろくろ首さんはいいのですか? あまり人を部屋に入れたくないとか……」
従業員たちの部屋には、絶対に勝手に入ってはいけないという掟がある。
だが、部屋の主が招き入れた場合は、問題はない。
スイは、今まで誰の部屋にも入ったことがないため、同じ女性の部屋でもすごく緊張してしまう。
今も、心臓のドキドキを抑えながら、ろくろ首について行く。
歩き始めてから数分後、ろくろ首の部屋にたどり着いた。
すぐに襖を開けて「どうぞ、ひっひっひっ」と招き入れた。
「お、お邪魔しま――……」
スイは部屋の中に入った瞬間、言葉を失ってしまった。
それもそのはず。中には、マネキンの頭が大量に置かれているのだ。
様々な髪が乗せられているマネキンの頭から、つるつるのマネキンの頭。
他にも、なぜか目元が割れていたり、頭がへこんでいたりと。
ずっと見ていると気持ちが悪くなってしまいそうな部屋に、スイはその場に立ち止まり、顔を引きつらせた。
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