後悔と立ち直り
今回来る猫又家族は、少々荒い性格をしているあやかしの集まりだ。
大黒柱である夫、良成は、策士と周りから言われているほど、ずる賢い。
妻である雫は、相手への当たりがきつく冷たい。
娘の静稀は、元気いっぱいのわがまま娘。
他には、個性豊かな女中が数人来る。
それを資料で確認していたスイは、難しい顔を浮かべた。
「猫又家族の妻、雫さんって、変な噂が流れているんだよなぁ……」
スイが聞いている噂とは、雫があやかしの長に独断で喧嘩を吹っ掛けたというものだ。
娘である静稀も絡んでいるという話も、ちらほら耳にする。
その噂で唯一名前が出ていないのは、夫である良成。
独断で動かれては話が出てこないのも当然かと思いながらも、スイは頭を抱えた。
「今回のおもてなし、少しでも間違えたらどうなるかわからないなぁ……」
今回は今まで以上にしっかりしないと、と資料を見ていると、いきなり後ろから資料が奪われた。
「あっ」
「…………今さら確認しているのか?」
資料を奪い取ったのは、先ほどいなくなった天狗だった。
スイは頬を膨らませ、資料を奪い返し、プイッとそっぽを向く。
「今さらそれを確認してどうする。お前は裏方に集中するのだから、意味は無いぞ」
「確かにそうかもしれないですけど、やっぱりお客様の情報は共有しておいた方がいいと思います。それに、今回のお客様は少々厄介ですよね? 問題を起こしているみたいですし、ここで暴れられては、たまったもんじゃないですよ」
資料に再度視線を落とす。
雫という猫又には要注意だと思っていると、天狗が鼻を鳴らした。
「問題はない。この旅館は、誰が仕切っていると思っている」
「それは、まぁ、天狗様ですけど……」
「わかっているのなら、早く準備を整えろ。時間がないぞ」
そのまま天狗は歩き、旅館の奥へといなくなった。
一人残されたスイは、頬を膨らませながら「まったく」と、ため息を吐く。
奪い返した資料を再度見るが、先ほどまでの集中力が切れてしまった。
「団体様が来るのは、一時間後。もう準備は整っているし、問題はない」
けれど、どうしても不安は残る。
何より、噂が気になって仕方がない。
「あやかしの長と言えば、たしか人間の巫女と婚約して、もう結婚されていたはず」
そんな新婚ほやほやな長に喧嘩を吹っ掛けるほどのあやかし一家。
どんなことをされてしまうのか、身震いしてしまう。
「まぁ、あんな態度しているけど、天狗様だし、大丈夫か」
「あはは……」と、資料をテーブルに置いた。
「私、旅館で働くの、向いてないのかなぁ……」
木製の天井を見上げ、ぼやく。
「あの時の失敗は、本当に旅館に多大な迷惑をかけるところだった。天狗様が動いてくれたから、小さな被害で収まったけれど……」
スイが初めて、旅館で若女将としてお客様の前に現れた時だった。
その時のあやかしは、そこまで名前が広がっていない小さなあやかし。
男性二人の一組客だった。
だが、そのうちの一人が、本当に自由人で仕方がなかった。
部屋は荒れるし、大浴場では他のお客様にも迷惑をかけて仕方がなかった。
何度か注意をしていると、スイは二人に取り押さえられ、身動きが取れなくなってしまった。
それでも、迷惑行為はやめてくださいと訴え続けていると、スイは一人の男性に任されてしまった。
何をする気だと思えば、スイが持っていた、旅館のいろいろな所を出入りできるマスターキーを盗まれたのだ。
マスターキーは、管理人とスイだけが持っていた。
信用できる者しか持たされておらず、それを盗まれてしまえば、旅館の機密事項やお金なども盗まれる可能性があった。
スイは顔を青くし、「返して」と叫ぶが、男たちは盗んだマスターキーで何をするか企み、聞いていない。
どうすればいいのかわからず、泣きそうになっていた時、天狗が現れ、スイを救い、マスターキーも取り返した。
そのあやかしは出禁となり、そこで終わり。
けれど、そこから天狗の様子が変わってしまったのだ。
マスターキー一つで、旅館を制圧できる。
そのくらい、危険な場所には鍵が付けられているのだ。
それをわかっていながら、マスターキーを盗まれてしまった。
その失態が、天狗を怒らせているのだろうと、スイは思っていた。
「はぁぁぁぁぁ……」
部屋で落ち込んでいると、襖の奥から声が聞こえた。
『スイ様、ろくろ首です』
「あっ、どうぞ」
返事をすると、襖が開く。
廊下には、見た目は普通の女性が頭を下げ、廊下に座っていた。
「何かございましたか?」
「いえ、先ほど二口女さんが、スイ様が落ち込んでいると話していたため、気になりましてぇぇぇええええ~~~~」
「きゃぁぁぁぁぁあああ!!!!」
頭を下げているろくろ首を見ていると、急に話している途中で首を伸ばし、スイの目の前まで顔を近づけてきたのだ。
そのことにスイも驚き、思わず悲鳴を上げてしまった。
「おやぁ、驚かせて申し訳ありません~。決して驚かせたかったわけではないのですよぉ~。気持ちが高揚すると、どうしても首が伸びてしまいまして~。ひっひっひっ」
「い、いえ。大丈夫です」
まだバクバクしている心臓を抑え、スイは気持ちを落ち着かせた。
「それで、何かお悩みがあるように思えますが、大丈夫でしょうかぁ?」
首だけでなく、体もしっかりと部屋の中に入り、スイの前に座る。
まだ首が伸びているため、スイはなんとなく体ではなく、頭の方を見上げてしまう。
「え、えぇっと。大丈夫ですよ。今回の団体様は、少しおもてなしが大変そうなので、気持ちを落ち着かせていただけなのです」
「そうですかぁ~。確かに、今回のお客様は少々噂がありますものね。強張ってしまうのも、仕方がないと思いますよぉ~」
「うんうん」と、ろくろ首が腕を組み、一人で頷いている。
「ですがぁ、私達はいつも通りにおもてなしをすればいいのですよぉ~。いつもの私達を、お見せすればいいのです。それが、妖癒旅館ですよ」
ろくろ首が「ひっひっひっ」と笑いながら言うと、スイはぽかんと目を丸くした。
「いつもの、ですか?」
「そうですよ。特別なことをしようとしなくていいのです。いつも通りの、貴方様を、皆さまは望んでおります」
ろくろ首はそう言うと立ち上がり、廊下へと向かう。
「では、私はやることがまだございますので、これで。失礼します」
独特な笑い方を残し、ろくろ首はいなくなった。
残されたスイは、目を丸くしたまま固まる。
「…………ろくろ首さんなりに、慰めてくれたのかな?」
「えへへ」と、スイは笑う。
「さて、私は裏方だけれど、今日も一日頑張ろう!!」
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