謎が深まる
「んじゃ、俺も行くなぁ~」
「あっ。待ってください」
いなくなろうとした黒緋の服の裾を掴み、スイは止めた。
振り返り、彼は「なんだ?」と問いかける。
「黒緋さん、鬼火さん達が言っていたのですが、変な噂を広げるのはやめていただいてもいいですか?」
「ん? 噂ぁ? なんだ、それ」
「いや、だから――……」
スイは、鬼火から聞いた旅館の噂を話した。
聞いている間、黒緋は眉を顰め、思案しているような表情を浮かべている。
すべて話し終えると、「うーん」と唸り、腕を組んで考え始めてしまった。
「黒緋さん?」
「――――それ、俺は知らんぞ」
「え? そ、そんなことは……。だって、鬼火さん達が嘘を言うわけないし……」
鬼火は、精神年齢は子供だ。
嘘を吐く時はあるが、今回のような噂を嘘で話すなどありえない。
でも、黒緋も嘘を言っているようには到底見えなかった。
スイは、このことを早く天狗に報告しなければならないと、顔を上げた。
「ありがとうございます。ちょっと私、天狗様に伝えなければならないことが出来たので、これで失礼しますね」
「まてまて。俺に変な話を吹き込んでおいて、それはないんじゃないか?」
「え、で、でも…………」
「俺も行く」
何やら楽しそうに笑っている黒緋を見て、スイは思わず苦笑いを浮かべた。
「特に面白い話でもないですよ」
「これから面白い話になるかもしれないじゃねぇかよ」
「がははは」と、口を大きくして嗤う黒緋を見て、スイはこれ以上何を言っても意味は無いなと諦めた。
そもそも、黒緋がいた方が話は進むかもしれないという考えにも至り、スイは廊下を歩き出した。
向かうのは、天狗の部屋。
スイなら絶対に近付くことはしないが、今回は緊急事態なため仕方がない。
――――さっき別れたばかりなのに、また声をかけるのはさすがに迷惑だとは思うけど。
申し訳ないという気持ちを抱きながらも、スイは「天狗様ー」と声をかけた。
すると、中から人が動く音が聞こえ、数秒後に襖が開かれた。
そこには、鴉の面を顔に付けている天狗の姿。
運が良ければ、天狗の素顔を見られるかなとも思っていたスイは、少しだけ残念がってしまう。
「…………噂について聞いたのですか?」
「おう、聞いたぞ。そんで、だ。俺はあんな話、知らん」
黒緋が素直に言うと、天狗は顎に手を当て、考え込む。
「なんとなく、そんな気はしておりました」
「まぁ、なにかあれば、俺は必ず玄に報告するからな」
黒緋の言葉に、天狗は小さく頷いた。
そんな二人の会話を聞いて、スイの頭に疑問が浮かぶ。
「で、でしたら、あの。考えたくはないのですが、鬼火君たちが注目を集めたくて嘘を吐いていたのでしょうか」
「それは絶対ない。あいつらは確かに子供だが、そんな無意味な嘘を吐くほど馬鹿ではないからな」
天狗の言いようにスイは思う所があるが、そこは何も言わずに「へー」と何とも言えない声を漏らした。
「だが、それだと、もう一人俺がいることになるが……。それか、変化か。だが、妖癒旅館に人の姿を真似できるあやかしはいたか?」
「今のところは確認していません。それに、幽霊が旅館を歩くという噂を、わざわざ流す意味も理解できません」
「だよなぁ」
天狗も黒緋も腕を組み、考え込んでしまう。
一人取り残されたスイも考えるが、何も思い浮かばない。
――――第三者が絡んでいるのは確実なんだとは思うけど、そんな人、いるかなぁ。
妖癒旅館で働いているあやかし達は、みんなそれぞれ個性があるが、今回のような事態は初めてだ。
こんな時、自分の両親ならすぐに解決できるのだろうかと、つい考えてしまう。
今まで聞き込みを少しだけしてきたスイは、両親の仕事ぶりはなんとなく予想できていた。
自分もそんな風に動けたらよかったのに。
そう考えていると、天狗がスイに視線を向けた。
「お前は特に何もするなよ」
「え? で、でも」
「お前が何かすると、事態が悪い方向に勝手に進んでしまうからな」
「何でそうなるんですか!! 私だってできるんですよ!!」
また天狗の言葉に、スイの頭に血が上る。
顔を赤くして怒るが、天狗にとってはどこ吹く風だ。
スイからすぐに視線を逸らし、黒緋を見る。
「ひとまず、黒緋さんはいつも通りでお願いします。そして、何か気になる事があれば、いつものように報告を」
「わかったぞ~。玄もあまり無理するなよ? 最近、働いてばかりだろ。あやかしと言っても体は壊す。お前の場合、壊れるまでやるからな」
「…………まぁ、頭には入れておきます」
スイが怒っている間に話はまとまった。
天狗はそのまま、スイには何も言わず部屋の中へ戻ってしまう。
「もぅ、本当になんで私には、あんなにきつい言い方するんですか……。私だって、少しは天狗様の役に立ちたいのに……」
顔を俯かせ、ボソッと不満を呟くと、黒緋がスイの頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「わっ、わっ!! な、なんですか?」
「お前だけに態度が違うのは、特別だから、なんじゃないか?」
「え?」
スイが素っ頓狂な声を漏らすと、閉じられた襖がスパーンと大きな音を立てて開けられた。
「黒緋さん、余計な事は言わないでください」
「へいへい~」
天狗の焦っているような表情を、くすくすと笑いながら見て、黒緋は軽い返事を返す。
そのまま廊下を歩き、いなくなってしまった。
ポカンとしているスイを見て、天狗は深い溜息を吐いた。
「おい、今のは気にするなよ」
「は、はい? わ、わかりました」
天狗はどこか焦った様子で言うと、また襖を閉じ、部屋の中へ戻ってしまった。
スイは、天狗がなぜそこまで焦っているのか見当もつかず、首を傾げた。
「うーん。まぁ、今日はもう遅いし、部屋に帰ろうか」
二人の様子はよく分からなかったが、スイは考えることを放棄した。
そのまま廊下ですれ違うあやかし達に挨拶をし、部屋へと戻った。
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