幸せへの道
「――――私は、親に捨てられ、巫女として、人とは思えない生活をしていたのです」
「…………」
華鈴はスイから視線を外し、過去を思い出すように天井を見上げた。
「その生活から救ってくださったのが、今の旦那様なのです。ですから、覚悟があったわけではなく……旦那様の奥様になる以外に、生きていく術がなかったのですよ」
――――こういう人って、本当にいるんだ。
スイは、話には聞いていた。
自分の子供を捨てる親がいることを。
けれど、実際に目にしたことはなかった。
そのため、どこか現実味のない、フィクションの話だと思っていた。
だが、目の前には、親に捨てられた過去を持つ人がいる。
そして、あやかしを旦那様にするしか道がなかった人間が。
言葉が出ず、スイは口をぱくぱくと動かすだけだった。
「でも、私はその道でよかったと思っています。――――いえ、その道だったからこそ、本当にありがたくて、涙が出てしまいます」
「そ、そうなんですか?」
「はい。旦那様は本当にかっこよくて、優しくて……何も出来なかった私に手を差し伸べてくださり、ゆっくりと、様々なことを教えてくださいました。本当に、私は幸せ過ぎます」
爽やかで、澄んだ笑顔。
その表情だけで、嘘を言っていないことがすぐに分かった。
「――――失礼なことを聞いてしまい、申し訳ありません。そして、お答えくださり、ありがとうございます」
「い、いえ……こんな答えしか出来ず、本当にすみません……」
どこまでも優しく、おっとりとした人だなぁと、スイは思わず笑みを浮かべた。
「では、ご案内いたします」
「あ、あの……私からも一つ、聞いてもいいですか?」
「は、はい。何でしょうか?」
華鈴は遠慮がちに手を上げ、問いかける。
「あの……もしよろしければ、もう少しお話しできませんか?」
「え? でも、早くお部屋に戻らないと、お連れの方が心配されるのでは……?」
「大丈夫です。旦那様は、私を信じてくださっていますから」
そう言って微笑む華鈴は、先ほどまでのおどおどした様子を一切感じさせない、凛とした表情を浮かべていた。
「――――素敵、ですね」
「ありがとうございます。それで……お話し、していただけますか?」
「私は大丈夫ですよ」
――――多分、お客様がいる間は大丈夫。でも、明日は確実に天狗様に怒られるだろうなぁ。
ネチネチとした天狗の小言を想像しながら、華鈴の願いを受け入れる。
スイは、落ち着いて話せそうな場所へと彼女を案内した。
旅館には、温泉や食事だけでなく、観光も楽しめる工夫が施されている。
裏手には、景色を楽しめるよう、ぽつんと一つだけベンチが置かれていた。
一見すると殺風景だが、腰を下ろすと景色が一変する。
目の前に広がるのは自然。
緑の隙間から差し込む陽光が、きらきらと輝いていた。
その光景に、華鈴はベンチに座った瞬間、感動の声を漏らす。
「すごく……綺麗です」
「ここは、私の両親のお気に入りの場所でもあるんです」
スイも、この場所は両親に教えてもらって知った穴場だった。
一応お客様にも案内はしているが、旅館の裏手ということもあり、立ち寄る人は少ない。
大抵は、温泉や食事だけで満足してしまうのだ。
「ここでしたら、ゆっくりお話しできますね」
「はい……あの、本当はお忙しかったでしょうに、私のために時間を作ってくださり、本当にありがとうございます」
「い、いえ!! 全然暇していただけなので、お気になさらず!!」
仕事中であれば普通に話せるスイだが、こうして個人的に話すとなると、どうしても緊張してしまう。
心臓がバクバクと鳴り、何を話せばいいのか分からない。
「あの……私、人間の友達がいないんです」
「え、そ、そうなんですか?」
「はい」
そこから少しずつ、華鈴の身の上話を聞くことになった。
先ほどの話は、ほんの一部に過ぎなかった。
両親に捨てられ、親戚もいない。
周囲から疎まれ、最後には巫女として働かされ、生贄に――……。
あまりにも過酷な人生だった。
自分も普通とは違う生活をしているが、そこまで苦しくはない。
それなのに、目の前の彼女は、自分より若いにもかかわらず、命を賭ける覚悟を背負って生きてきた。
スイの心臓が、どくどくと波打つ。
何と声をかければいいのか分からなかった。
「ですが私は、巫女として働けてよかったと思っています」
「な、なぜですか? 普通の生活に憧れたりは……?」
「憧れた時期はありますよ。でも、巫女として働いていなければ、御神木を守っていなければ……今の旦那様に出会うことはできませんでした」
その言葉に、スイは驚いて華鈴の方を見る。
そこには、心からの幸せを噛みしめているような表情があった。
「――――九火様は、今、幸せですか?」
「え? きゅ、きゅ、い、いえ、わ、私は……!」
「きゅ、九火様~!?」と、名前を呼んだだけなのに、なぜか真っ赤になってしまう華鈴。
その初々しさに、スイは思わず笑ってしまった。
視線を感じて顔を上げると、華鈴がじぃっとこちらを見つめていた。
「あっ、す、すみません!! あの、馬鹿にしているとか、そういう意味では決してなくて!!」
慌てて弁解すると、今度は華鈴が、くすりと笑った。
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