質問
次の日の朝、一つの夫婦が旅館へと現れた。
「いらっしゃいませ」
天狗と、他の女将たちが出迎える。
今回のお客様は、ここ最近人間と結婚された九尾の狐と、その奥様。
その情報を聞いたスイは、聞き込みどころではなかった。
だが今回も、天狗によって奥へと引っ込められてしまう。
部屋で待機しているものの、今頃みんなが忙しなく動いているのだろうと思うと、いてもたってもいられない。
畳の上に寝転がり、ゴロゴロと落ち着かずに転がる。
「――――気づかれないように手伝いたいけど……多分……いや、確実にバレるから無理だろうなぁ」
畳に寝転がったままため息を吐くと、襖の向こうから男性の声が聞こえた。
『スイ様ー、黒緋ですー』
「黒緋さん? どうぞー」
襖が開かれる。
そこには、爽やかな笑みを浮かべた黒緋が立っていた。
「予想通り、落ち着きねぇなぁ~」
「仕方ないじゃないですか。今回のお客様は九尾様と、その奥様になった人間……元巫女さんですよね? トラブルが起きないか不安ですし、そんな重要なお客様でしたら、私も手伝いたいんです」
座り直してそう言うと、黒緋は顎に手を当て、少し考え込んだ。
「今回の客は、今まで以上に礼儀正しいから問題は起きないと思うぞ。特に人間側が本当にお淑やかで、ずっと旦那の一歩後ろを歩くような人だ」
「そ、そうなんですか?」
「おう。だから今回は俺の出番がなくて残念だ」
本気で残念そうに肩を落とす黒緋を見て、スイは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、今回は特に大きな問題はないと思うから、気にせずゆっくりしなさい」
スイの頭に大きな手が乗り、少し乱暴に撫でられる。
「じゃな」
そう言って、黒緋はそのまま部屋を後にした。
「…………もしかして、心配して来てくれたのかな」
黒緋は豪快そうに見えるが、人をよく見ていて、気遣いもできる。
スイは、そんな彼に何度も助けられてきた。
――自分も、助けられる側じゃなくなりたい。
そう思った時、ふと黒緋に聞かなければならないことがあったのを思い出す。
「ま、待ってください、黒緋さん!!」
慌てて襖を開け、廊下へ飛び出す。
だが、すでに近くに黒緋の姿はなかった。
「は、速っ!?」
方向を間違えたのかと思い、反対側へ走ってみるが、それでも見つからない。
「はぁ……また次に会った時に、噂について聞こう」
そう呟き、部屋に戻ろうとしたその時、背後から足音が聞こえた。
スイは振り返る。
「あ、あれ? あの人って……」
廊下の奥を歩いていたのは、黒髪をまとめ、夜桜のような着物を身にまとった女性だった。
「あの、いかがいたしましたか?」
スイはすぐに駆け寄り、今回のお客様――九火華鈴へ声をかける。
またトラブルかと警戒しながら、華鈴と視線を合わせた。
「あ、すみません。あの……部屋が分からなくなってしまって……」
「お客様のお部屋ですね。ご案内いたします」
「あ、ありがとうございます……すみません……」
華鈴は、あやかしの長に嫁いだ人間の女性。
スイはもっと高飛車で威圧的な人物を想像していたが、目の前の彼女はまったく違った。
むしろ小さく縮こまっていて、自信がなさそうに見える。
隣を歩いていても、常に周囲を気にし、できるだけ邪魔にならないようにしているのが伝わってきた。
「あの……そんなに肩に力を入れなくても大丈夫ですよ。すぐにご主人のところへお連れしますから」
「あっ……す、すみません。本当に、ご迷惑を……」
無理に性格を作っているようにも、何かを隠しているようにも見えない。
スイは警戒を解き、横目で華鈴を見た。
「……ご無礼を承知で、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「は、はい」
「なぜ、あなたはあやかしの世界に足を踏み入れようと思ったのですか?」
スイは自然と足を止めた。
それにつられて、華鈴も立ち止まる。
「それは……どういう意味で聞いていらっしゃるのでしょうか」
「あやかしの長の奥様になるということは、それなりの覚悟が必要だったと思います。何が決め手だったのかな、と……」
あやかしと生活を共にするだけでも大変だということは、スイ自身が身をもって知っている。
それなのに華鈴は、ただ共に生きるだけでなく、あやかしの“長”を夫に選んだ。
並大抵の覚悟で決められることではない。
予想ができなかったとしても、普通は恐怖を感じるはずだ。
だから、スイは気になった。
――本来なら、お客様にこんなことを聞いてはいけない。
深く踏み込みすぎてしまう質問だと分かっていた。
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