噂
「今日はお風呂の大掃除だから、大人しくしているの?」
「うん!! 今日はお休みだから、一号と三号と一緒にお休み中!」
鬼火たちは、自分たちで一号、二号、三号と勝手に名前を決めていた。
それでいいのだろうか、とスイは思いつつも、本人たちが満足しているようなので、あえて何も言っていない。
余計なことを口にして癇癪を起こされてしまえば、お風呂がマグマかと思うほど温度が上がってしまうのだ。
「今日はどうしたのぉ?」
「私は今、旅館の中を見学中よ」
「見学中? 旅館の上司なのにぃ??」
――――グハッ。
スイは、無邪気に放たれた言葉に大ダメージを受けた。
「そ、そうね……。でも、最初は両親が入院して、なにも準備ができなかったから、あまりゆっくり見て回れなかったの。だから、改めて話を聞きながら旅館を見て回っているのよ」
にこっと微笑みかけるスイに、鬼火たちは顔を見合わせ、満面の笑みを返した。
「そういえば、スイ様!!」
「なぁに?」
「こんな噂、知っていますか?」
――――え? 噂?
正直、噂というものは不思議な話が多い。
大抵は幽霊が出るだとか、旅館の物が勝手に動くだとか――怖い内容が多いと、スイは偏見じみた認識を持っていた。
そのため、正直に言えば今の話題は聞きたくない。
スイは、怖い話が大の苦手なのだ。
けれど、ここで断れば確実に癇癪を起こす。
今、癇癪を起こされれば、掃除中の垢嘗たちが危険だ。
スイは冷や汗を流しながら、「な、なぁに?」と笑顔を貼り付けて問い返した。
「この旅館にねぇ、なんかぁ……あやかし以外の“何か”が迷い込んでいるんだってぇ~」
「あ、あやかし以外って……?」
「んー。わからないけど、足はないみたいだよ!!」
その言葉に、スイの顔はみるみる青ざめる。
「へ、へぇ……」
平静を装ってはいるが、体は恐怖で小刻みに震えていた。
「でも、誰も見たことがないんだってー」
「――――え? 見たことがない? なら、どこからそんな噂が?」
「黒緋様だよー!!」
その名前を聞いた瞬間、スイの中で何かがぷつりと切れた。
「わ、わかったよぉ。ありがとう。えっと、その噂は……あまり広めないようにねぇ~」
「えー!! なんでなんで!!」
子供たちは、今にも泣き出しそうな顔でスイを見上げてくる。
――――まずい!! このままだとマグマが誕生する!!
「く、口が堅い男は、とってもかっこいいからだよぉ!!」
咄嗟に出た言い訳。
これで納得するはずがないと思いながらも、スイは必死に言葉を重ねる。
「男というものはね!」
「男というものは!!」
言い訳を繰り返すスイを見て、鬼火たちの涙目は、次第に輝きへと変わっていった。
「そ、それでね、男は口が堅い方が――」
そう続けようとした瞬間、鬼火の一人が目を輝かせて飛び上がった。
「僕!! かっこいい男になれる!? 玄様みたいに、かっこいい男になれる!?」
「「僕も! 僕もー!!」」
転んだスイに、鬼火たちが一斉に飛びつく。
炎の体なので少し熱いが、我慢できないほどではない。
「な、なれるよ! て――玄様みたいに、かっこよくて美しい男性になれるよ!! だから、今の話はあまり広めないでね??」
スイが必死に話を合わせると、三人は元気よく、
「「「はーーーい!!」」」
と返事をした。
――――なんだかよく分からないけど、うまく丸まった……。
スイはほっと一息つき、鬼火たちを窯へ戻す。
立ち上がり、服についた埃を払って振り返った、その先に――
予想だにしていなかった人物が、立っていた。
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