捷疾鬼
「――――と、私は本当に感動してしまって。そこから後れを取らないように、私も自分磨きをしているんです~」
目をハートにしながら、二口女が語る。
途中、母への愛があふれ出し、スイは苦笑いを浮かべつつ、話を続けさせていた。
「な、なるほど……未来予知、ですか。確かに、見えていそうな感じはしますが、実際のところはどうなんでしょうか」
「それは、私たちには教えてくれませんでした。未来予知を持っているのか聞いたこともあったのですが、笑うだけで……。それだけで、持っているのだろうと思ってしまいます。ただ、勝手な憶測は視野を狭めてしまいますから、奥様が自ら教えてくださるまでは、考えないようにしています」
二口女は、優しく微笑んで話を終わらせる。
楽しそうに語るその姿を見て、スイは思わず笑みをこぼした。
「あ、すみません。奥様の話になると、どうしても興奮してしまって……」
今度は照れたように、二口女の顔が赤くなり、少し小さくなる。
普段はマイペースながら、しっかり仕事をこなす二口女が、今はすっかりしおらしい。
そのギャップに、スイの胸は射抜かれた。
胸を押さえ、畳に崩れ落ちるスイ。
そんな様子を見て、二口女は困惑する。
「あ、あの……?」
「い、いえ。なんでもありません。お話を聞かせてくださって、ありがとうございました」
尊すぎて仕方がない気持ちを必死に抑え、スイは体を起こす。
「いえ。また何か困ったことがあれば、いつでもお申し付けください」
まだほんのり赤い顔で笑いかけられ、スイは再びノックアウトされる。
二口女はそのまま廊下へ出ようと、襖を開けた。
――その瞬間、ものすごい速度で何かが横切った。
「な、なに!?」
驚くスイの横で、二口女は笑顔のまま拳を握りしめる。
「ふ、二口女さん……?」
「――――では、私はこれで」
血管が浮き出た二口女に、スイは何も言えず、「は、はい……」と見送った。
廊下へ出た二口女は、叫び声を上げる。
『待てや、捷疾鬼ぃぃぃぃいいいいいい!!!』
怒声が廊下に響き渡る。
さっきまで普通の女性だったが、今や、うなじの口を大きく開き、長い舌を伸ばして捷疾鬼を追いかけていた。
捷疾鬼とは、足の速い鬼である。
力も鬼だけに強いが、見た目はただの子供。
人間に擬態している時は少年の姿をしており、廊下を走り回るのが好きだ。
しかし、その速度で走り回られると、誰かとぶつかった際、トラック以上の衝撃で吹き飛ばされてしまう。
過去にはそのせいで、数十人のあやかしが病院送りになったこともある。
そのため、二口女は捷疾鬼が走っていると、必ず叱りに行くのだ。
「二口女さん、大変だなぁ……」
肩を落としながら部屋に戻るスイ。
先ほどの話をまとめようと、テレビ台の引き出しを開け、ピンク色の可愛らしいノートを取り出した。
テーブルに戻り、まずは二口女から聞いた話を書き留める。
――妖癒旅館を守る記録
・母は、未来予知ができた……?
そう書いてから、自分で首を傾げる。
「未来予知って、本当にあるの? お母さんって、人間だよね……?」
無意味に、自分の体をぺたぺたと触ってしまう。
まさか、自分は人間だと思っているけれど、実はあやかしだったり……?
そんな突拍子もない考えが、頭を駆け巡る。
「……はぁ、馬鹿らしい」
そんなわけがあるはずがない。
自分は人間で、あやかしではない。
変なことを書いてしまったノートを閉じ、立ち上がる。
「次は、誰に聞こうかな」
やはり最初は、話しやすい人がいい。
そう思い、スイは部屋を出て、旅館の中へと向かった。
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