〜第4話〜 第三者
旧校舎図書室に通い始めてしばらく経ち、
いくつかのことに気づいた。
あの図書室は俺とイオリ以外人が基本来ないということ。鍵は壊れているらしく要らないこと。黙認されて管理がそこまで行き届いてない場所だということ。
そんな中で知ったことといえば
ーーー「そういや、イオリっていくつなの?」
何日前だったかふと俺はイオリに尋ねた。そう、学年も知らずに俺は当たり前の様にタメ口を叩いていたことに気づいたのだ。
少し悩んで彼女は答える。
「...18。」
「え、先輩?」
口から思わず零れる。まさかの先輩。
低めの身長や、初めの少しふてぶてしい態度から
てっきり後輩か同級生かと無自覚に思い込んでいたらしい。
「えっーーと、今までタメ口すみません。先輩、3年生だとは知らずに...」
イオリは俺の言葉を聞くなりどこか傷ついたような苦い顔をする。
「そんなの今更どうでもいい。」
口をついて出た言葉だったのか、彼女の目が見開かれる。
図書室内の気温がグッっと下がったように感じた。もちろん、実際に気温が下がった訳では無いが。きっと。
「そっか。うん。俺も今更敬語なんて無理。」
俺は固唾を飲んだ。
「..だよね。そうして。」
彼女はそう呟くと気まづさを誤魔化すように頬を掻いた。
そんなやり取りの末、彼女の年齢は18歳、先輩だということが発覚した。学年が違うからか、不思議なことに、彼女と『この場所』以外で顔を合わせたことはない。
たった1度も。
ーーー「居る?」
呼びかけと共に扉を開ける。
イオリは本から顔を上げ、こちらに軽く手を振っていた。歩み寄ると、イオリはあの日から相変わらず椅子を小さく引いてくれる。
リュックサックからワークを取り出し、取り組む。
「あれ、委員会のは?」
イオリが尋ねる。
「先週の委員会で提出した、ほら木曜。」
「君、確かに来るのいつもより遅かったね。」
イオリとはこんな何気ない会話が増えた。彼女の大きく変化しない表情から感情を汲み取ることもできるようになった。
いや、意外に表情は変化している。
稀に口角が遠慮がちに上がっていたり、眉が八の字のようになっていたり。
それと、 いつもの涼しげな目をたまに伏し目がちにしてどこか寂しそうな顔をしている。
ーーーポツリ、ポツリと他愛のない会話を交わし、ワークを半ページほど進めた時、
「相澤くーーーん!居ますかぁー?」
静かな旧校舎には場違いな程大きな、初めての第三者の声が響く。
突拍子もなく声がしたことに驚いたのだろう、イオリは肩を強ばらせ、ハッとしたように扉を見ていた。
俺はなんだかそんな様子のイオリを見て、
先程の声の主を、この部屋へ入れては行けないように感じた。
委員長ーー咲丘先輩を。
理由はわからない。けれどこの感覚を無視できなかった。
声の遠距離感から考えると、先輩はまだ2階へは上がってきていない。
図書室の場所がわからず、呼んだら俺がとりあえず来るだろうと階段付近で声を上げたらしい。
「ごめんな。失礼。」
イオリに声をかけ、急いで図書室から出る。
「先輩?」
廊下を歩きながら声を上げると、人影が廊下の隅から現れた。
「あ!居た!」
先輩はそのまま俺にもたもたと駆け寄ってくる。
....そういや運動は苦手だった。この先輩。
「どうしたんですか?こんなとこまで」
息を軽く切らせながら彼女は答える。
「いや、ほら、この間、の課題!」
「課題?...あぁ探求課題ですか。」
「そう!それっ!うぇっ、」
再び咳き込み始めた。
「ゆっくり話したらどうです?」
と呆れ気味で俺は言う。彼女は頷き、3回程大きな深呼吸をした。
「えっと、参考資料があるんだよね?」
「え、だめでした?」
慌てて彼女は口を開く、
「違う違う!卒業生さんの資料の使用は全然大丈夫だよ?でも、名前はさすがに必要かなって。付け足せそう?」
....そういや書いていなかった気がする。いや、そもそも、あの資料に著者名は記されてあっただろうか?
「が、頑張ってみます。」
とりあえずで俺が返事をしたことが伝わったらしく、お返しと言わんばかりに次は彼女が呆れ顔をした。
それでも、人を放っておけない性格なのだろう
「私も手伝おうか?卒業生の名簿とか、経歴とか探せばココかどっかにあるんじゃないかな。」
そう言うと、彼女は今度はスタスタと、俺が来た方向へと足を進める。
彼女を止めようとしたが、上手く言葉が思いつかない。
「いや、あの!....大丈夫です。」
「遠慮しなくていーの。私もちゃんと資料見たいし!」
場合によって優しさは、裏を返してお節介へと変化する。
「あ、ここか。」
『図書室』と表記された学級札を見て、先輩は呟く。
夏に近づく蒸し暑さの性か、それともなにか他のもの性か、背中を、変な汗が伝う。
そしてそのまま
ーー先輩は扉を開けた。
☆咲丘先輩のフルネームは
咲丘美咲




