〜第3話〜162
彼女と慧の関係性は
ーーー相も変わらず不器用な言い方をしてしまった。それでも、彼は今日は来てくれるのかな。
いや、別に期待はしていない。
手にしている本へと再び目を落とす。
『持ち出し禁止』そんなルールほんとにあったかなんて自分にもよくわからない。ただ、私は。
トッ、トッ、トッ足音が廊下から響く、その音に表情を変えてしまう自分が、少し気持ち悪い。
その音はちょうど扉の前で止まり。一拍空けてから遠慮がちに、または沓摺が錆びているからかゆっくりと横に引かれた。そこにはついさっきまで私の頭に浮かんでいた、
彼が立っていた。
ーーー昨日と同じように、彼女は今日もそこにいた。自分の顔が綻ぶのを感じる。昨日置いたままにしていた資料をカウンターから取り、彼女の方を振り返る。すると隣の椅子が後ろ引かれてあった。
隣に座れと言うことだろうか?
俺は彼女に歩み寄り
「椅子、ありがと。」
と告げ、そのまま腰を下ろした。
今日、彼女に聞きたいことがある。昨夜俺は気づいてしまった。まだ、彼女の名前を知らないことを。
えぇい、案ずるより産むが易し。聞け、名前を!
唇を舐め、言葉を紡ぐ
「あのさ....今更気づいたんだけど、君の名前まだ知らないなって。教えてくれない?」
静寂が図書室を支配する。
話は聞こえたはず、その証拠に彼女は一瞬、表情を変えて軽く下唇を噛んだ。
ーー干渉しすぎたか?
でも名前を聞くことって...
「...162。」
不意に沈黙は破られた。
ヒャクロクジュウニ?162?脳内で言葉を反復し、知恵を絞った結果、俺は聞き返す。
「が、学籍番号?」
「違うよ。それだったら、もっと桁が多いでしょう。」
確かに。
「162、私の名前はこれだよ。」
キッパリと言い切るが....
「いやいや、絶対偽名だよね??」
思わず突っ込むと彼女は気まずそうに視線を泳がせた。
「....やっぱり無理ある?」
「少しね?」
そっかーと彼女はため息混じりで呟き、目を閉じる。そしてゆっくり口を開いた。
「くるーー」
「待った。」
言葉を遮った自分に驚く。でも、
そんなおふざけで偽名を使うような人にはどうしても見えない。何か訳があるんだろう、きっと162に執着してるとか、本名が嫌いとか。多分。
「162だろ?162....あ、『イオリ』はどうかな?」
彼女は首をかしげる。その拍子に、髪が肩へと落ちた。
「なんでイオリ?」
まぁ、そうなるよな。
彼女はもう本には目もくれず、ただ真っ直ぐに俺を見据えていた。その真摯な目線に気圧されながら、俺は説明を続ける。
「まず、イチの『イ』。これはわかるよね。次、ロクを伸ばして発音してみて?」
「ろぉーく?」
「うん。その『オ』。リは....」
「リは???」
「ラリルレロの、上から2番目。」
口を開いて彼女が数秒固まる。
「それこそ無理があるでしょ。」
「...ごもっともです。」
「でも、まぁ162よりかはいいかもね。『イオリ』162だと囚人番号みたいだし。」
ニコッと彼女が微笑む。俺は初めて微笑以外の笑顔を見た。ーーなんだちゃんと笑うんだ。ギュッと、体の中心に血液が集中するような感覚がする。
「イオリってこれから呼んでも大丈夫?」
一応尋ねる。
「お好きにどうぞ。」
、先程とは打って代わって対応が塩っぽい。
でも、彼女はイオリと呼ぶことを認めてくれた。例えそれが実在のしない仮の名前でも、それだけでなにか奥から湧いてくるものがある。
まだひとつ、いやひとつどころじゃない沢山彼女、いやイオリに聞きたいことがあるのだが、これだけは聞いておきたい。
もう本に手をかけている彼女へ声をかける。
「...162って結局なんだったの?」
彼女は本を指差し答える。
「ページ数」
俺は苦笑した。
慧の身長は172cm




