第7話『宿へ。少年の異変?』
「服と言っても、俺のこの格好だとどこにも行けないか……」
少年は自身の格好を見て、小さく呟いた。
その呟きを聞いた少女は──、
「わ、私が行ってきますよ!」
「そうしてくれると助かるが……そもそもが金がないんだよな……」
「お金なら私が持ってます!」
「……………そこまで甘える訳には……」
「いえ! このくらいしか恩返しができないのでやらせてください! ここに来るまでの間、ずっと敵を倒してくださいました! 私はただ見てるだけで何もしてませんでした……だから! ここは私に任せてください!」
少女は鼻息荒く言ってきた。
(本当なら、あまり頼りたくはないけど……背に腹は代えられないか)
「じゃあ、頼む。適当に見繕ってくれ」
「はい! お任せください!」
少女は、森から街にスキップしながら入って行った。
「俺なんかに対して敬語とか、なんのつもりなのかね」
少年は、一人で石の上に座り、少女の帰りを待つことにした。
数時間後。
少女が戻ってきた。
「お待たせいたしました!」
「結構時間かかったな。何か問題があったのか?」
「い、いえ! 特に問題はなかったのですが、その……男性用下着を選ぶのが初めてで、妄想とかが色々捗ってしまい、選ぶのに時間がかかってしまいました……」
「はぁ……全く。いいから、ほら。服をくれ」
「は、はい! ど、どぞ!」
少年は、少女から服を受け取り、着替えていく。
その様子を、少女は顔を手で覆いながら指の隙間からジロジロと眺めていた。
着替えが終わった少年。
「驚くほどサイズが合ってるな」
「よ、よかったです……! 正直、ほとんどが勘で買ってきたので、不安だったんです……でも、合ってよかった……」
「うし。それじゃあ行くか」
「はい!」
二人は森の中を、再び歩き始めた。
☆ ♡ ☆
「ここって……隣国か……?」
「隣国……? こ、ここって国なんですか!? 私達、どれだけ歩いたんですか!?」
「分からん。目的もなく歩いてたけど、まさか国に着いちゃうなんてな……」
「入りますか……?」
「う〜ん……正直入りたくはないけど……このまま森を彷徨うのも嫌だからな……とりあえず入るか」
「はい! でも、あそこ、守ってる人がいますよ?」
「門番ってやつか……入門審査が厳しかったりするとあれだけど……行ってみない事には始まらないからな。羊の角とかは隠しておけよ」
「はい!」
少女は素直に羊の角と尻尾を隠す。
そして二人は、門へと向かった。
☆ ♡ ☆
「おい待て」
「「っ……」」
二人が門に近づくと、門番の二人が持っていた槍をクロスさせて、二人の行く手を妨げた。
「見ない顔ぶれだな。この国になんの用だ?」
「名前、目的、住まい国を告げよ」
門番の二人に問われる二人。
「(ど、どどどどどどどうします……!?)」
(面倒くさいな)
「おい、さっさと答えろ」
「名前はミヤビ、目的は観光、住まい国は……ガリアーリだ」
「み、み、み、ミリュナです……目的は観光です……住まい国は……」
「この子は俺と同じだ」
「「……………………」」
しばらくの沈黙が流れる。
門番の二人は、少年──ミヤビと少女──ミリュナの二人をまじまじと見つめる。
ミリュナはともかく、ミヤビは相当怪しまれているだろう。
左腕がなく、顔には三本の爪痕がついている。
そんな男、怪しいわけがない。
「ふむ。まぁ、いいだろう。入れ」
だが、ギリギリの所でなんとか突破できた二人は、軽く会釈をしながら門をくぐっていく。
そんな二人を、最後まで訝しんでいる門番だった。
☆ ♡ ☆
「そ、そういえば私達、自己紹介とかしてませんでしたね」
「そういや、そうだな」
街中を歩きながら会話する二人。
「まぁ、自己紹介はどっか宿を取ってからにしよう。人目に付くのは最小限に抑えたい」
「は、はい!」
二人はひとまず、宿を探すことにした。
しばらく進んだ所で、宿を見つけた。
見つけたまではよかったのだが……。
「へ、部屋が一つしかない!?」
「そうなんだよ〜。ここ最近色々と物騒な事が多くてね。部屋に引きこもる人が増えてるんだ。ほんのついさっきまで、二部屋あったんだけど、悪いねぇ……」
宿を経営してるであろうふくよかな女性が、申し訳なさそうに言う。
「そうか……困ったな……」
「何も困る事はありませんよ! 一緒の部屋に泊まればいいんですから!」
「あらあらまぁ♪」
「しかしな……」
ミリュナは、鼻息を荒くしながらミヤビに提案した。
ミヤビやミリュナだって、何も分からない子供ではない。
年頃の男女が同じ部屋に泊まると言うのは、中々問題があると言う事を理解している。
だが、それを理解していてもミリュナはそう提案した。
「寝込みを襲ったりはしないので、安心してください!」
「それは普通、男である俺の台詞なんだけど……」
「まぁまぁ、お兄さん。事情はよく分かんないけど、嬢ちゃんがこう言ってんだ、聞き入れてやりなよ」
「でも……」
「ふんふんふん!」
目をキラキラさせながら、首を縦に振るミリュナ。
そんな二人に負け──、
「分かったよ。じゃあ、一部屋、お願いします」
「あいよ! よかったね、嬢ちゃん!」
「はい!」
「朝、昼、晩とあっちの食堂で食事を提供してるから、好きな時間に降りてきて声かけなね!」
「ありがとうございます!」
「ほら、行くぞ」
女性から鍵を受け取り、階段を上って部屋に向かった。
部屋に入った二人。
「思ったよりは狭くなかったな」
「ですね! 広々としてます!」
ミリュナはベッドに、ミヤビはベッド近くの椅子に腰をかける。
そして、互いに自己紹介を始める。
「改めまして! ミリュナです! 14歳です! よろしくお願いします!」
「俺はやま──……ミヤビだ。15歳。よろしく」
「ミヤビ様……よろしくお願いします! ミヤビ様!」
「あぁ。ふわぁ〜……」
「長旅で疲れましたよね。お夕飯の時間になったら起こすので、お休みになってください」
「ん? ……………………」
ミヤビは正直、人の前では寝たくなかった。
信頼してないからだ。人は必ず裏切る。
だから、人前では油断や隙を見せたくなかった。
だが、睡魔が限界なのは間違いなくて。
「分かった。じゃあ頼んだぞ」
「はい! お任せください!」
ミヤビは、ミリュナにベッドを譲られ横になり、眠りに就いた。
☆ ♡ ☆
「…………………?」
「どうした? 口に合わないかい?」
「あ、いえ。めっちゃ美味いです」
「そうかい! 良かったよ! 沢山あるから、た〜んとお食べ! 嬢ちゃんもね!」
「は、はい!」
今二人は、宿の食堂で夕飯を食べていた。
先程、受付にいたふくよかな女性が料理を作ってるらしく、キッチンカウンターに姿があった。
ミヤビの反応を見て一瞬不安そうな表情を浮かべたが、美味しいと聞くと、嬉しそうな表情を浮かべて料理に戻っていった。
「ミヤビ様……?」
ミヤビの隣で食事を取るミリュナは、ご飯を食べるミヤビの様子がおかしい事に気がついていた。
沢山の料理を振る舞ってくれたので、テーブルの上には多種多様な料理が乗った皿が置かれている。
そのどれを口にしても、ミヤビの顔は晴れないのだ。
不思議に思うミリュナだったが、黙々と食べ進めるミヤビを見て、今は触れてはいけないと感じ、黙って食べ進める事にした。
部屋に戻った二人。と──、
「あ〜……腹減った……」
と、ミヤビが椅子に座りながら呟いたのだ。
先程、沢山の料理を食べたばかりなのに、だ。
「ミヤビ様……」
ミリュナは、とある可能性を思いつき、カバンからとあるものを取り出す。
「ミヤビ様、これを」
「ん? おぉ!」
ミリュナが取り出したもの。それは、トライデントベアーを焼いたものだった。
それを見た瞬間、ミヤビの表情は一瞬で晴れやかになり、貪るようにトライデントベアーの肉を食し始めた。
まるで ”何日も食事を取っていない” かのように。
(やっぱり……私の考えが正しかったら、マコト様はマズイ状態にあるかもしれない……)
何かを考えながら、がむしゃらに肉にかぶりつくミヤビを見つめるミリュナだった。