第6話『思いがけないファーストキス』
「ん……んん……」
私はゆっくりと目を覚ます。
どうやら、あのまま寝てしまったようだ。
「あれ……」
目を覚まし、上体を起こすとそこには、焚き火だけが残されており、誰もいなかった。
「全部食べてない……」
焚き火のところには、木に刺さったお肉が二つ残っていた。
昨日、あの人は全部食べると言っていた。
なのに残ってる……。
「もしかして、私の為に……?」
いやいや、そんな訳がない。ただ単にお腹が膨れて残しただけだ。
…………………。じゃあ、この焚き火は……?
「木がまだ新しい……付けて間もない……?」
この焚き火も、お肉も、私の為にやってくれた……?
「いや、だって、あの人は……私を襲った変態で……」
いや、違う……。落ち着いてゆっくり思い出そう……。
私は ”とある事情” があって一人で旅に出た。
食料などが全然足りず、フラフラになっているところに……。
「そうだ。大っきな熊が出てきたんだ……」
そうだ……。大っきな熊が二匹出てきて、襲ってきたんだ……。
「 ”力を抑えられてる” から本気が出せなくて、負けて、それで……」
私は熊にボコボコにされて、気を失ってしまったんだ……。
「それを、あの人は助けてくれた……?」
そう考えた途端、私の顔から血の気が引いた。
「わ、私……な、なんて、事を……!?」
私は自分がしでかした事の重大さに、体を震わせた。
あの大きな熊を二匹倒してくれて、傷ついた私を助けてくれた命の恩人に──、
「とんでもない事を、言い放ってしまった……!? っ!?」
私はお肉を旅に出た時に持っていたカバン(リュック)に詰め、火を消して一心不乱に走り出す。
今ならまだ、間に合うかもしれない。追いつけるかもしれない!
走れ! 走れ! 走れ!
そして、追いついて謝るんだ! 失礼な事を言ってごめんなさいって! そして感謝を伝えるんだ! 助けてくれてありがとうございますって!
「ハァハァ……!」
間に合って……!!!
私は走り続けた。
☆ ♡ ☆
「はぁ〜。腹減ったな……なんでだ? こんなに腹が減った事なんて、今まで一度もないんだけど……」
少年は、歩きながら自身のお腹を擦っていた。
先程からずっとお腹が鳴りっぱなしなのだ。
「どっかに食材は……」
歩きながら、辺りを見回していると──、
「ん? 何か来る?」
後ろから接近してくる気配を感じ、少年は後ろを振り返った。
すると──、
「んちゅ♡」
「っ!?」
唇に何かが触れた。
少年が慌ててくっついてきたのを引き剥がすと、そこにいたのは、今朝置いてきた少女だった。
「お、お前……なんでここに……!?」
(ってか、今の感触って……!?)
「追いつけて、良かったです……!」
少女は息を切らしながら、少年を見つめてくる。
「なんで付いてきた……?」
「すみませんでした!!!」
「っ!?」
少女は頭を勢いよく下げ、少年に謝罪をした。
「あなたは、私を助けてくれたんですよね……それなのに私は、勝手に勘違いして、話も聞かずに勝手に暴走して、気遣いも無駄にして……謝っても謝りきれないと、絶対に許してはもらえないと分かってはいます。ですが、謝らせてください……! 本当にごめんなさい……!」
少年は戸惑っていた。
昨日、悪態をついてきた少女が涙を浮かべながら謝罪をしてきている。
どうしていいのか分からず、少年は呆然と立つことしかできなかった。
「お前が付いてきた理由は分かった。そ、それで……その……き、キスをしてきた訳は……?」
少年は頬を赤らめながら言った。
「あなたの事が、好きだからです」
「………………は?」
少年は、少女が何を言ってるのか理解できなかった。
「ごめん。聞き間違いかもしれない。もう一回──」
「あなたの事が大好きなんです」
「………………」
少女は、少年の言葉を遮り食い気味で告白してくる。
「なぜ? どこに君が俺の事を好きになる要素が? 強姦だと勘違いした相手に、好意や好感なんて抱かないはずだけど」
「いえ。私が勘違いしていて、助けてくれたのだと気づいた時、私の胸は高鳴ったんです。あの人は強くてかっこいい人だと。失礼な事をしてはならない人だと。そう思った瞬間、私はあなたが好きだと自覚しました」
「……………よく分からん」
「分からなくて大丈夫です。これは、人種には伝わらない考え方ですから」
「……………やっぱり君は亜人、なのか?」
「はい。亜 ”神” です。私は【羊神人】と呼ばれる種族です」
少女は、自身の正体を明かした。
頭には羊の角が生えており、尾てい骨には真っ白な少し長い尻尾が垂れている。
「羊人……羊か……で? なんで俺に正体を明かした? こういうのって人間には無闇に明かしちゃいけないんじゃないのか?」
「あなたなら、明かしてもいいと思ったんです。いえ、違いますね。あなただから、明かしたかった。本当の私を知ってほしかった」
「………………そうか。それで、言いたいことは全部言い終えたか? 終わったのなら俺は行く」
少年が歩き出そうとすると──、
「ちょ、ちょっと待ってください!」
少女が少年の正面に回り込み、行く手を阻んだ。
「なんだ? 用は済んだろう?」
「わ、私も同行させてください」
「何に」
「あなたの旅にです」
「は?」
少年は嫌悪感丸出しの表情を浮かべた。
少年は、ここにくるまで人に裏切られ、人に対しての信用がなくなっていた。
よって、誰かと一緒に旅をするのが死ぬほど嫌だった。
「お願いします……! 私をあなたの旅に同行させてください……!」
「嫌だ。俺は誰かと一緒に行動するつもりはない。人は必ず裏切る。信用も信頼も全てが無駄だ。だから、俺は一人で生きていく」
少年が頭を下げる少女の隣を通り過ぎようとすると、その腕を少女が掴んでくる。
「なんだ」
明らかに苛立った声音で尋ねる。
「わ、私は裏切りません……! 全身全霊であなたに仕え、あなたを支え、あなたを守ります……! 私を信用しなくてもいいです。信頼もしなくていいです。でも、せめてお側にいさせてください……! お役に立たせてください……!」
「同行云々の前に、俺はお前を許してないんだが」
別に、少女に言われた暴言に対して怒ったりはしてないのだが、断る口実になればと思い少年はそれを口にした。だが、それがいけなかった。
「分かっています……。だから、お許しいただけるようにあなたの役に立ちたいのです……!」
「…………………はぁ〜」
少年はため息をついた。
少女の手は震えている。おそらく泣いているのだろう。
なぜそこまで同行したいのか。全裸な怪しい男について行きたいなんて、どう考えてもおかしい。
だが、ここまで懇願されてしまったら無下にするわけにはいかない。
「俺はお前が嫌いだ。許してないし、この先も許す事はないだろう。それに、俺は二度と他人を信じたりしない。態度だって最低で最悪なものになる。お前の扱いも酷いものになるだろう。それでもいいなら、ついてこい」
「っ!」
少年が言った言葉に、目を輝かせながら頭を上げる少女。
「あ、ありがとうございます……!」
少年の手を両手で包み込み、頭を下げお礼を述べる少女。
「はぁ……」
少女の手を離し、歩き出す少年。
「あ、あの……?」
「とりあえず、お互いに着るものを調達しなきゃだろ。こんな格好じゃどこに行っても門前払いだ。特に俺はな」
「あ……」
少女は、少年の全身を見た後、顔を赤らめ両手で顔を覆った。
しかし、指の隙間から少年の裸を見てる事はバレバレで、少年はため息をつくことしかできなかった。
少女の押しに負け、同行を許可した少年。
この二人の旅がどうなるか、楽しみにしていてください!
一人称と三人称が混ざっているので、読みづらさを感じてしまうかもしれません。ですが、そんな事が気にならないくらい面白いと思っていただけるように、頑張って執筆いたしますので、最後までよろしくお願い致します!
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