第1話『略奪・暴行・追放』
「え……?」
僕は、見知らぬ部屋にいた。
ゴミ捨て場にいたはずなのに、なぜか室内にいて、しかもその室内が見たこともない内装をしている。
僕はアニメとかが好きなので、こういう内装を少しは知っている。
これって、王室とかそういう感じだよね?
よく異世界転生系、転移系とかで見かけるものだ。
って事は僕、異世界に来たの?
など、僕がアコギを抱きかかえながら考えていると──、
「また失敗だ!」
と言う声が聞こえてきた。
な、何が失敗なんだ? 僕が声のする方を向くと、そこには玉座があり、そこにいかにも王様って人が座っていた。
「なぜこうも失敗ばかりなんだ!五年前も失敗したではないか! これでまた五年後になってしまった!」
王様と思しき人は、かなり苛立っているのか玉座の前に立つ白髪でモノクルをかけている男性に、感情をぶつけている。
「そいつを殺せ!」
は……? 今、なんて言った……?
「そいつを殺せ! そして持ってる物は全て奪い、コレクターどもに売り捌け!」
「お、王よ……それは流石にやりすでは……」
「我に口答えする気か、ガイゼル! 貴様はいつからこの我に口答えできる身分になったんだ!」
王様と思しき……まぁ王様か。
王様は、執事の男性──ガイゼルを怒鳴りつける。口答えされたのが相当気に食わなかったのだろう。
「も、申し訳ございません……!」
「分かったならさっさとやれ! そいつを殺して所持品を奪え!」
「はっ! 君達!」
『はっ!』
「え……!?」
ガイゼルと呼ばれた人が、騎士達を呼ぶと、騎士達が僕を取り囲む。
そして──、
「ぐあああああああああああああああ!?」
持っていた剣や槍などで僕を突き刺してきた。
肩、足、腕、腹、いたる所を刺されまくる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!
「がはっ……!?」
僕は大量に吐血をする。
全身からも血がドバドバ溢れ出ていて、これは失血死するだろうと思った。
だが、ギターだけは離さず、ずっと抱きかかえていた。
自分でもどうしてなのか分からなかった。
もう捨てようとした物なのに、これだけは手放したくなかった。
「その謎の所持品をさっさと奪え!」
王様の命令で、騎士達がギターを奪おうとしてきたが、僕は必死に抵抗した。
どうでもいい。いらない。忘れたいと思っていたのに。どうして……。
でも、これだけは──、
「絶対に渡さない!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、叫んだ。しかし──、
「うるさい! ショックスキル!」
「がっ!? がああああああああああああ!?」
王様が僕に向かって ”何か” を使用してきた。
それにより、僕の全身は麻痺したかのように痺れ、動けなくなってしまった。
力も入らず、ギターを抱える腕の力も抜けてしまった。
その隙に、騎士達にギターを奪われてしまう。
「やっと手放したか。ほう……これは中々……」
騎士が、奪ったギターを王様に見せに行く。
このままじゃ、本当に殺される……。
なんとかして逃げなければ……。
「くっ……!」
僕は力を振り絞り、這いつくばって部屋を出る。
しかし、それがバレないはずがない。
「おい、奴が逃げたぞ! 捕らえて殺せ!」
と言う、王様の声が背後から聞こえてくる。
「は、早く……!」
スピードを出したいが、全身が痺れ、さらにはあちらこちらを貫かれているので、痛みで全く速く動けない。
「ここは儂にお任せください」
「あぁ。二度と逆らう事は許されんからな!」
「はっ!」
ガイゼルの声が聞こえてくる。
あ〜……。もう、終わりだ……。
僕はここで死ぬんだ。こんな、知らない場所で……。
タタタッ!
背後に人がやって来た。おそらくガイゼルだろう。
後ろを見る力もなく、僕は力なく項垂れ、殺される覚悟を決めた。
すると、ガイゼルは僕の顔付近にしゃがみ込み、小声で囁いてきた。
「(今から回復薬を飲ませます。本当は儂のスキルを使いたいのですが、それをすると王にバレてしまう。完治する訳ではないのですが、お許しください)」
そう言ってガイゼルは、水色の液体が入った小瓶を取り出す。そして、それを僕の口に当て、飲ませてくる。
あ……痺れが取れた……。それに全身の痛みも、完全とまではいかないけど、治まった。
「あの……」
「シっ……。(これしかあの一瞬では回収できませんでした。申し訳ございません。あそこを右に曲がると、誰にも見つからない通路がございます。そこからお逃げください)」
「(で、ですが……)」
「(早く……! こんな事をしておいて、都合がよすぎるかもしれませんが……生きてください!)」
そう言ってガイゼル……改め、ガイゼルさんは、僕の背中を押して逃がしてくれた。
僕は振り返ったりせず、言われた通りの場所に向かい、城を脱出した。
☆ ♡ ☆
「はぁはぁ……!」
逃げる途中で、王室の中からガイゼルさんの悲鳴が聞こえてきた。
おそらく、僕を殺してないことがバレたのだろう。
ガイゼルさんがどうなったのかは分からない。
でも、おそらく……。
考えたくはない。でも、あの王ならやる。
「クソッ!」
この世界の人間って、全員あんななのか!?
ガイゼルさんが唯一いい人ってだけで、他は全員……!
だとしたら……。
「僕は、誰も信じられない……!」
まだ軽く痛む体にムチを打ちながら、僕はなんとか城の門付近にたどり着く。
そこは裏門だったようで、警備をしている人は誰もいなかった。
「と、とにかく逃げよう……」
僕は、ガイゼルさんに渡された ”物” を握りしめながら小走りで門に向かう。
少し離れた所に人影が見えた気がするが、気のせいだと思うことして、門を抜けた。
そして僕は、とにかく逃げるために森の中へと足を運んだ。
いかがだったでしょうか?
唯一優しくしてくれたガイゼルさん。
そんないい人がいたのに、どのようにして少年は闇に堕ちていくのか。
そして、少年はこれからどうなっていくのか。
たっくさん楽しんでいただけますと幸いです!
面白い! 続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークをしてくださると幸いです!
よろしくお願い致します!