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プロローグ
「いねえって言ってんだろうが。」
怒気をはらんだ声で、目の前の男が叫んだ。
「知らねえとは言わないんだな。観念しろよ。目撃証言もあるし、それにほら、お前の部屋にいるって証拠もあるんだ。」
私は男の室内をとらえた写真を見せながら言った。よく見えるように目の前でヒラヒラさせながらさらに挑発する。
「お前は私の依頼主でもなければ、今後そうなる予定もない。私の時間は有料なんだ。牧場にでも行って豚の乳でも吸ってこい。そうすりゃ自分のおかれている状況が少しは理解できるだろう。」
男は我慢できなくなったのか私の右頬を殴り、私の胸倉を掴みまた叫んだ。
「てめえが調査官だろうが何だろうが関係ねえ。あれを失えば俺が消されちまう。悪いがてめえには消えてもらうぜ。」
私は“調査官”剛田孝一。警察や行政が扱いきれない事案を解決する者。猫を捜していただけの私が、どうして胸倉を掴まれ、命の危機にさらされていのか、その理由を説明するとしよう。