母上の企み
「あの子はなんであんなに直球なのよ! 普通もっと相手にアピールしてからか。私にかませればいいの
に」
母上が怒っているらしい。
なんでももっと僕が慎重に考えて母上に答えをしてから、二人がその気になるように演出する予定だったらしい。
聞いてないから知らないし。
そもそも僕は恋愛に淡泊なんだ何せ両親と兄夫婦を見てきたからね。
元々の性格もあるけど。
恋愛にはクールなんだ。
そこは我が家の遺伝子は操作しなかったらしい。
子供の頃から甘え上手ではあったけどなんか冷めた部分もあった。
だから皇太子にも興味がなかったんだ。
両親は大公にした後に領主のいなくなった国を継がせて公国を建国させるつもりだったらしいけど。
超御免です。
あれから二週間マリアティーヌからの返事はない。
そうだろういきなり皇太子妃候補なんて「はいお願いします。」とはいかない事はわかります。
なので母上の所にも行けない雰囲気です。
そのかわり母上の手紙とメヌエットが僕の皇太子宮に行き来しています。
「殿下。マリアティーヌが困ってますよ。
なんでさっさというんでしょうね。」
メヌエットのお説教が始まりました。
「だって~別に想像してみてといっただけだし…」
「それ考えて答えくださいと言ってるようなものです」
「ふ~~~ん」
「殿下本当に恋愛に淡泊すぎます。兄上を見習ってほしいです」
今紅茶をいただいていますが、思わず吹き出してしまいました。
咳込みます。
「無理無理……無理~~~」
誰を手本に?あの人みたいには無理です。
嫁のストーカーなんてマリアティーヌも嫌がって即離婚が関の山です。
メヌエットは右手でお手上げとばかりにため息をついています。
「僕の理想はクール&シンプルな関係さ」
「はぁ~~~~」
メヌエットのため息は海よりも深い。
皇后宮に戻ったメヌエットは母上と作戦会議の様です。
「殿下は事の問題性を理解してない」
メヌエットの愚痴が続く。
「大体 結婚願望の少ない女性にいきなり結婚しない?みたいなトークできます?」
母上はそうよねとこくりと頷いた。
「はあ~誰に似たのかしらね」
「皇后陛下 これではらちがあきません。
一つ作戦を考えませんか?」
母上の瞳がきらりと光る。
メルエットは小声で母上に耳打ちしている。
「そうね。その方法ならかなり……勝算があるわね」
女二人の魂胆はろくでもないのが相場です。
そんなある日に会議で「新しい公国の建国」につて議題があがった。
それは先代皇帝の寵臣であるナディアン公爵を統治させるというつまり小さいとはいえ一国の君主となるのだ。
しかもその土地は帝国の皇室所有の土地になるという。
皇帝はこの件で事前に大臣達に伝令しており、皆もろ手を挙げて賛成とはいえないが事情を考慮して納得させていた。
なので即決済となった。
これは結婚へのふせんだね。
そしてその伝令を公爵家に伝えにいくのは僕になった。
今の所は内定状態なので伝えにいくだけだ。
なのに父上から親睦を高めるように何故か狩猟するようにと言われてしまった。
これは臭いとは思いながらも今公爵家に向かっています。
公爵家は帝都にも邸宅がありますが、夫人の療養もかねてオンディーヌの森の近くの別宅で暮らしています。
さて公爵は当然ながら大歓迎で僕を迎えてくれます。
表門まで出てこられて馬車がこちらに着く前から門の前でウロウロされていたようです。
馬車から降りてすぐにお辞儀をされて迎えてくれます。
「ありがとう公爵」
「とんでもない事でございまあす殿下 まずは我が家へ」
頷いて部屋の居間に通される。
決して華美ではないがシンプルで上品な居間だ。
中央のソファーに案内される。
静かに腰を降ろしてまずは形式通りの挨拶をすませる。
「正式には七日後 皇室の土地を公爵の名義にして公国を建国するようにと皇帝陛下より伝令です。
但しその地位は一代限りとする。
なお土地については永久に公爵家の所有とすると陛下の御意思でございます」
「御礼申し上げます。
益々皇家にお仕えすると共に永遠の祖先の忠誠をお誓いします」
僕は頷く。
「ありがとうございます殿下
陛下から承っております。明日狩猟の用意をいたしております
それまで我が家でゆっくりお過ごしくださませ」
そういって夕食まで隣にある別宅を用意してくれていた。
さすがに一人娘のいる本宅には置けないよくわかります。
別邸もこじんまりしながらも品が良い内装でくつろげる様になっている。
いい趣味だね公爵は。
召使を何人もと執事長がわざわざつけてくれている。
気がききますね。
夕食は公爵夫妻と次期当主の長男が席についていた。
つまり四人だ。
なにげない流行や外国の話やこの前の戦場の話など会話に尽きる事はなかった。
食事も美味しくとびきりのアファルキア茶も用意されて食後に頂きました。
何事もなく流れるように過ぎた当日湯あみをしてから就寝した。
月が綺麗だ。
翌日は快晴で絶好の狩り日和だった。
公爵と僕、そしてアリアティーヌが参加した。
これはマリアティーヌが辞退出来ないようになっているようで、ただし僕は事前に結婚の話は出さないというのが条件になっていると聞かされていた。
「久しぶりだね」 マリアティーヌ」
「はい殿下 ご機嫌いかがでしょうか」
少し気まずそうな様子だ。
「いい感じだよ。君も元気そうでよかった」
ニッコリと微笑む。
さっきから恥ずかしいのかどうしたらいいのか目を合わせようとしない。
まあぁ~一緒にいるんだからいいか。
「さア。参りましょう」
公爵はそういい馬の腹を蹴った。
三人はオンディーヌの森へと入った。
マリアティーヌは森に入った途端いつもの様子に戻り楽しそうだ。
本当に狩りが好きなんだな。
馬の手綱の操作も乗りこなしなど完璧で美しい。乗馬服もよく似合っていた。
しばらくして鹿が見えてまずは公爵が狙いをつけて引き金を引く。大きな音と共に鹿は健脚だったのか逃がしてしまった。
「お父様 惜しい」
鹿がいた場所に血の跡がある。
「まだ近くにいる
追うから二人は先に進んで。あえない時は屋敷で会おう」
そう言って二人っきりにしてしまいました。
しばらく馬を歩かせて森の中に進む。
「晴れてよかったですね殿下」
マリアティーヌから先に話してくれて僕はほっとした。
「そうだね。狩りは晴れないとそれにここは迷いやすいから」
以前よりも訪れやすくなったとはいえ、迷いやすい場所には違いない。
「あ! ウサギが!」
マリアティーヌが反射的に馬を走らせて獲物に近づく銃を構えて発砲する。
ウサギの急所にあたり獲物を確保する。
するとマリアティーヌが獲物に手を合わせて祈る。
「女神ディア 命を頂きます」
そういってウサギを手にした。
「君はいつも獲物に祈りを捧げるの?」
「えぇ命をもらうからね。」
これは貧しい人に神殿での施し用なんだ。
マリアティーヌの人柄に感心する。
「さあ殿下。殿下も腕をみせて」
さらに奥森に進み走らせる。
大きな鹿がこちらを見ている。
「よし!」
僕は馬上から銃を構えて発射する。
見事に心臓を射抜きバタッと倒れた。
「女神ディア 命を頂きます」
僕も唱えた。
二人で微笑み合う。
なんだかいい気持ちだ。
そんな時体に水が落ちる感じがした。
「あ雨?」
そんな天候のての字もなかったのに。
するとその雨は大粒になり、ひどい降りになってしまった。
急いで!マリアンティーヌが僕を誘う。
その先にある洞窟が見えた。
「ここは前から把握していた場所さ」
得意げに言った。
マリアティーには年齢の割に意外と子供ッぽい所がある。僕が大人びているから丁度いいかな。
「殿下 髪が濡れてる」
自分のハンカチを僕に差し出す。
差し出す手が熱い。
「え!マリアティーヌ熱があるよ」
「え。そんな事は……」
その瞬間に身体が思うように動かなくなり崩れ落ちるようになる瞬間僕が受け止める。
「マリアティーヌ」
洞窟には誰かがやはり休憩用に使用した跡があり、いくつかの物がおいてある。
僕はマリアティーヌの身体を僕の上着を敷いた場所に寝かし彼女の上着を上からかけた。
身体は熱い。
丁度布があったので外に出て雨に打たせてマリアティーヌの額に乗せた。
囲炉裏らしき跡の場所に枝もあり、僕は何かあった時の為に火つけ石も持ち歩いている。
時間はかかるが火もたけてなんとか一日くらいは過ごせそうだ。
マリアティーヌは苦しそうだが、眠っている時々鼻に手を翳して呼吸を確認する。
ほのかに灯るマリアティーヌは美しい。
元々美しとは思っていたけど。まじまじと見たのは初めてかもしれない。
僕の周りの女性は皆強いからこういう場面はあまりない。
しかもこの環境だ。本当に心配だ。
普段とは違う所が僕には新鮮だった。マリアティーヌは僕にとって……。
そんな事を考えているうちに睡魔が襲ってきたらしい。
マリアティーヌの傍でスーすぅ~寝てしまった。
翌朝僕は寒さで目を覚ます。
すぐに火をおこした。
マリアティーヌはまだ寝ている。
火が空気を温めてくれた頃、マリアティーヌが目を覚ました。
「殿下 殿下が?」
マリアティーヌが下を向いて肩を震わしている。
「殿下。殿下ごめんなさい。
わたしちゃんと殿下と向き合うから」
そういって涙を拭いて明るく笑った。
その時僕の中のガラスの部分がパリッと割れる音がした。
それは終わりの始まるで僕のDNAが発動した合図であったようだ。




