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番外編 太陽のストーカー③

 帰り道。美優羽さんと奏さんが、とてもとても楽しそうにお話をしています。


 私はというと、会話に入ることが出来ません。二人の雰囲気がとてもいいですし、美優羽さんも奏さんもどちらも楽しそうです。私の入る隙間なんてありません。


 こうなることはわかってはいました。わかってはいたんですけど、いざそうなるとちょっとくるものがあります。


 私は陰鬱な気分を抱えてしまいます。一人で寂しさを感じるのは慣れっこだから別にいいです。


 しかし、今は大好きな美優羽さんと一緒にいるのです。折角美優羽さんと一緒に帰っているのに、こんなに楽しくない、疎外感のあるのはあんまりです。


 そう思っていた時でした。


「秋葉さん……、ずっと黙っているけど楽しくなかった?」


 と、奏さんが心配そうに声を掛けてきました。


 流石に顔に出しすぎていたようです。露骨すぎました。ここで、はい楽しくありません。貴方たちのせいです、と言ってしまうのはダメでしょう。


 私はある程度大人です。ここは誤魔化しましょう。私は首を横に振ります。


「そんなことないですよ。ただ、お二人が楽しそうに会話をされていたので、邪魔をしてはいけないと思ってただけです」


 そう言って愛想笑いを浮かべます。これである程度は誤魔化せるはずです。


「そうなの。ならよかったけど、秋葉さんも会話に入ってきていいんだよぉ」


 奏さんはまだ少し心配そうにしています。もう少し笑顔で答えた方が良かったですかね。


「あっ、はい。わかりました」


 私はそう返事をしました。


 それから少し、私達の間は沈黙に包まれました。二人が楽しそうに会話しているのも辛いですが、これはこれで辛いです。


 とはいえ、私にこの状況を打破する会話の種はありません。さてさて、どうしましょうか。


「そういえば、秋葉さんと美優羽ちゃんってどうして仲がいいの?」


 奏さんが口火を切りました。内容は私も入っていける内容です。


「えっと、話しているうちに仲良くなったよね。楓?」


 美優羽さんはそう即答しました。


 話しているうちにですか。まあ確かにそう言われれば、その通りです。美優羽さんにとってはそのくらい軽いものでしょう。


 しかし、私的にはそれは違います。私にとって、美優羽さんとの出会いは、革命的なものでした。


 私は幼い頃から筋金入りのいじめられっ子でした。小学校1年生の頃から、みんなにいじめられて過ごしてきました。この事は美優羽さん、奏さんは絶対に知らないと思います。この学校の人は誰も知らないはずです。


 物がなくなるのは日常茶飯事。筆箱や机が誰かにゴミ箱に捨てられていたり、窓から投げ飛ばされたり。男の子から殴る蹴るの暴力のオンパレード。女子からは無視や陰口、トイレをしているときに水をかけられたりと、陰湿な嫌がらせのフルコース。


 こんなのが毎日続いていました。だから、毎日毎日涙を流して泣きながら、学校から帰っていました。不登校になることも考えましたが、そんな勇気私にはありませんでした。


 来なかったら、家に押しかけられて何かされるんだろうなと思って。あと、親に心配をかけたくなかったと言うのもあります。


 だから、明日こそは誰かが助けてくれて、イジメは止まって欲しいなと願いながら学校に行くしかありませんでした。けど、そんな日は訪れませんでした。


 私が敬語調で話しているのも、きっとこのイジメが原因なんだろうと思います。少しでも、イジメられる要素を減らそうとした結果、それが習慣になってしまったのでしょう。そのくらい、私の人生に影を落としているのだと思います。


 高校になってからは、両親の仕事の都合で引っ越すことになり、この町にやってくることになりました。その時はひたすら嬉しかったのを覚えています。これでやっと、イジメてきた奴らと離れられるんだと。


 それで高校に進学したわけですが、こんな私だからでしょう。誰とも話すことが出来ませんし、誰も話しかけに来てくれません。まあ、こんな地味な女の子だから仕方がないと思います。


 そうして、入学から1週間が経った日の昼休みでした。


「ねえ。秋葉さんだっけ? 何してるの?」


 美優羽さんからそう声を掛けられました。同級生からそんな声を掛けられた事がなかったので、私はすごく緊張しました。


「え、えっと、特に何もしていないでしゅっ……」


 私が噛みながらそういうと、美優羽さんは微笑んでいました。


「そんなに緊張しなくてもいいじゃん! 私達同級生なんだから」


 それはまさに、私を明るく照らす太陽のようでした。


「そっ、そう言われましても……」


「そうだ! 折角だから私とおしゃべりしましょ? 毎日同じ人と喋ってても退屈だからさ!」


 それから、私と美優羽さんは色んな事をお話ししました。お互いがよく見ている動画や、その日の数学の授業の感想、お弁当の何が美味しかったのか。本当に他愛のない事でした。


 私は上手く喋れた自信はありません。それまで、同級生とそんな会話をしたことがなかったので、仕方ないと思います。


 それでも、美優羽さんはそれを茶化す事なく、真面目に話を聞いて、相槌を打ってくれて、自分はどう思ったのかを話してくれました。


 正直に言うと、その瞬間はとても楽しかったですし、夢を見ているようでした。同級生とそんな会話ができるなんて、微塵も思ってませんでしたから。それに、こんなに優しくしてもらえるとも思ってもいませんでした。


 終わって欲しくない。この時間だけが永遠に続いて欲しい。けれど、時間は残酷にも過ぎ去っていきます。


 予鈴のチャイムが鳴り、楽しい時間が終わります。会話の終わり際、美優羽さんは笑顔でこう言いました。


「そんな名残惜しそうにしなくても……。また誘うから、一緒に喋ろうよっ」


 私はこう言われて、とてつもなく嬉しかったのを今でも覚えています。また、この楽しい時間を過ごせる。優しく話を聞いてくれる、と。


 それから、美優羽さんは私と積極的に話してくれましたし、日によっては、美優羽さんのグループに入れてもらえました。


 そのお陰で、少しずつですが交友関係ができましたし、人の優しさ、温かみに触れることが出来ました。


 そして、私は次第に美優羽さんの優しさや明るさに惚れていきました。この優しさを出来れば私だけに浴びたいと思うようになりました。これは人生初の恋だと思います。


 私にとって美優羽さんとは恩人なのです。私に優しい世界を教えてくれた、導いてくれた、恋を教えてくれた恩人なんです。


 そんな美優羽さんを、私はストーキングして苦しめているのです。私は性格が悪いんだろうなあと、思ってしまいます。


「か、楓……? どうしたの?」


 美優羽さんがどうしたのか心配そうにしています。ちょっと回想に入りすぎたようです。


「あっ、そっ、そうですね。私と美優羽さんとは話している間に仲良くなったんです」


 私はちょっと焦りながら答えました。焦る必要はないのに、どうしてか焦ってしまいました。


「へえー。じゃあ秋葉さんからしたら美優羽ちゃんはどんな人?」


 奏さんがそう聞いてきます。これはチャンスかもしれません。私の美優羽さんに対する想いを伝える。


「とても優しい人で、私にとって恩人です」


 私はすぐに力強く回答しました。恋しているということだけを隠して。


「お、恩人なんて大袈裟な! 私はただ仲良くしてるだけだよ」


 美優羽さんは少し顔を赤くしながら、私の話を否定します。


「いいえ。美優羽さんがどう思っていらっしゃっても、私にとっては恩人で大切な人なんです。奏さんにとってもそうなんでしょうけど、この気持ちは誰にも負けるつもりがありません」


 私は否定させません。真っ直ぐ目を見つめます。そして、奏さんにもこの私の想いをぶつけます。


「うわー。なぜか宣戦布告されちゃったよぉ。美優羽ちゃん」


 奏さんは、手を軽く口に当てて驚いた表情をしています。宣戦布告。そうかもしれません。私は、奏さんに勝負を挑もうとしているのかもしれません。


 勝ち目が薄く細い勝負を。それでも負けるわけにはいきません。私は心を燃やします。


「だけど、美優羽ちゃんが他の友達にも大切に思われてるって知って嬉しくなったよぉ。お互い美優羽ちゃんを大事にしていこうね」


 奏さんが右手を差し伸べてきました。握手ですか。敵同士と言えど、フェアプレーは大事ですからね。まあ私はストーキングという、レッドカード級の反則をしていますが。


 そんなことを思いながら、私は奏さんの手を強く握りました。


「ええ。私負けませんので」


 私は力強く宣言します。私のキャラらしくはないですが、このくらい強くしておいた方がいいでしょう。舐められないことに越したことはありませんし。


 そんなことをしていると、美優羽さんの家に着きました。なんだかんだで実りのある帰り道は、これでおしまいです。私は若干の寂しさを覚えます。


「今日誰にもつけられなかった。これ、もしかしたらいいのかもしれない」


 美優羽さんは嬉しそうにしています。それを見て。奏さんは美優羽さんの手を握ります。


「そうなの! じゃあ明日から学校の日は一緒に帰ろう!」


「そうねっ。それで解決だわ!」


 二人とも喜んでいるみたいです。ただ、この様子だと私の犯行だと気づいていないみたいです。まだまだストーキングが出来そうです。


 私はしめしめと、この状況を一人喜んでいました。

ここまで読んでいただきありがとうございました


また読んでいただけると幸いです


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