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第九十六話 ロマラン奴隷と捕虜交換

 ジャビ帝国を打ち破ったわが軍は王都アルカに凱旋した。市民たちが俺たちを盛大に出迎えてくれたのは、うれしかった。しかし、勝利の余韻に浸る間もなく、俺は次の行動に移った。


 ジャビ帝国軍の捕虜はおよそ5万人だった。残りは戦死したり、ガレー船に乗って逃げ帰ったようだ。それらの捕虜を収容するための施設は、王都アルカの郊外に広がる林を切り開いて、簡易テントを設営することで対応した。テントは帝国軍から鹵獲ろかくしたものと、不足分はアルカナ王国軍のものを利用した。捕虜を収容するための財政的な負担は馬鹿にならないが、俺にはそれに見合うだけの目論見があった。


 この世界では、敵の捕虜を奴隷として使うのが一般的だ。しかし俺は、ジャビ帝国によって占領されたロマランの町に今なお囚われている、ロマラン市民を解放しようと考えたのである。つまり、帝国軍の捕虜5万人とロマラン市民の奴隷4万人を交換しようと考えたのだ。もちろん相手が捕虜交換に応じるかどうかは、わからない。俺は交渉申し入れの文書をしたためて、ロマランを統治する帝国の総督へ使者を遣わした。


 それともう一つ、厄介な問題が残されていた。もちろん、ジェイソンが語っていた『いとこのレスターが俺を暗殺しようとしていた件』である。とは言っても、俺は本物のアルフレッドではなく、アルフレッドが毒を盛られて生死をさまよっている間に本物と入れ替わってしまった男なので、正確に言えばレスターが俺を殺そうとしたわけではないのだが。


 どうすべきか、俺はミックに相談してみた。ミックは飛び上がらんばかりに驚いた。


「なんと、それは本当ですか? しかし、裏切り者のジェイソンの話など信用できません」


「確かにそうなのだが、どうにも気になる。レスターを呼んで真偽を確かめようと思うのだが、どうだろう」


「そんな話をすれば、レスター様は間違いなく気分を害されると思います。それに、もし事実だったとしても、絶対に真相は口にしないでしょう。明白な証拠がない以上、ここは黙っていた方がよろしいかと」


「なるほど、直接確認しても本当のことはわからないし、面倒なことになるだけかもしれない。しかし、もし本当だったとしたら・・・」


 ミックと俺がそんなやり取りをしていると、そこへ、レスターが俺に面会を求めてやってきた。何の要件だろう。不思議に思ったが、俺はレスターと王城の謁見の間で面会することにした。


 レスターは俺にうやうやしくお辞儀をしてから言った。


「アルフレッド陛下、このたびはジャビ帝国軍に勝利したこと、まことにおめでたく、お祝い申し上げます。ジャビ帝国との戦いにおいても、陛下が八面六臂はちめんろっぴのご活躍をされたとか。なんと素晴らしい。陛下がいる限り、このアルカナ王国は安泰です」


「ありがとうございます、これも皆の力添えがあってこそです。今後もお願いします」


「かしこまりました・・・ところで、ジェイソンの領地はエニマ国から返還されると聞きましたが、そのあとは、どうされるおつもりですか? もし宜しければ、私に総督をご命じいただければ、必ずやご期待に沿うよう統治してお見せいたします」


「確かにジェイソンの領地は我が国に返還される・・・そのあとどうするかは、まだ決まっていません。レスター殿のお申し出につきましては承りましたので、よく検討させていただきます」


「ありがとうございます。私もアルカナ王国のさらなる発展に尽くしたいと考えておりますので、なにとぞよろしくお願い申し上げます」


 若干のやり取りの後、レスターは引き上げていった。


 レスターは王位継承者として、私の次の順位にある身分だ。考えてみれば、その身分の高さの割には、これまで十分な処遇が与えられていたとは言えない。大きな邸宅が与えられ、十分なおカネも支給されているが、領地があるわけでもなければ、どこかの総督でもない。自分が冷遇されていると感じ、不満を募らせたとしても不思議ではない。そうなれば、良からぬことも考えるだろう。ここはレスターにジェイソンの領地を任せるべきかもしれない。アルカナ王国第二の都市、シンデールとその周辺地域である。


 翌日、俺はレスターを王城に呼び、ジェイソンの領地の新たな総督としてレスターを任命した。もちろん、レスターの動きを監視するようニックに命じることも忘れなかった。


ーーー


 その一件から数日後、ロマランへ使わせた使者が返書を持って戻ってきた。返書の差出人は「ジャビ帝国ロマラン総督、将軍、ゼーラス・ザシク」とある。


 俺はすぐに封を切ると、文面に目を通した。ミックが尋ねた。


「陛下、どのような内容が書かれているののですか」


「うむ・・・やったぞミック、相手は交渉に応じると言ってきた。こんなことを言うのはなんだが、正直に言って、トカゲ族が人間族との交渉に応じる可能性は低いと思っていたのだ。もちろん、交渉がすんなり進むとは限らない。あのトカゲ族の事だ。相手がさらなる要求や難癖をつけてくる危険性はある。しかし、まずは交渉のテーブルに着かせただけでも大成功だ」


「すばらしいです、陛下。それで、交渉場所はどちらになりますか」


「アルカナとロマランの国境付近、見晴らしのよい草原の真ん中を指定してきた。野外での面会だ。おそらく不意打ちを避けるためだろう。互いに十名の交渉団を出して、相手方のゼーラス将軍と私が直接面談する、というものだ」


「なるほど、草原のど真ん中であれば、あたりに伏兵を潜ませることは難しいですし、見通しが良いですから、危険を察知すればすぐに逃げることも可能ですね。それで、期日は?」


「三週間後だ。了解した旨の文書をしたためるので、ただちにゼーラス将軍に送ってくれ」


「はい」


ーーー


 三週間後、俺はアルカナとロマランの国境付近に広がる大草原にいた。天気は雲一つない快晴で、一面の緑にすがすがしい風が吹きわたっている。アルカナ王国の交渉団は、俺、レイラ、ルミアナ、カザル、サフィー、ミック、そしてトカゲ族であるザクとゾクにも同行してもらった。


 俺たちの目の前にはジャビ帝国の交渉団が立っていた。その中に、ひときわ大きいトカゲ族の男がいる。身長2.5メートルはあるだろう。分厚い胸板に丸太のような腕をしている。とんでもない威圧感だ。その大トカゲがゆっくり前に歩み出ると右手を差し出し、低く太い声で言った。


「はじめまして、私がロマランの統治を任されているゼーラスだ」


 どうやら、この大トカゲがゼーラス将軍らしい。俺も歩み寄ると右手でゼーラスの手を握った。とはいっても、相手の掌が大きすぎて様にならない。


「こちらこそ、私がアルカナ王国国王のアルフレッドだ。今回は交渉に応じていただき、まことにありがとうございます」


 俺たちはテーブルを挟んで互いに席に着いた。テーブルの正面に腰かけているゼーラス将軍はこれまで見てきた他のトカゲ族の将軍とは明らかに違う雰囲気を持っていた。顔は恐ろしい印象を与えるが、その目は鋭いながらも理性と慈愛を感じさせる。


 俺は切り出した。


「すでに承知のことと存じますが、先の戦争において我が国の捕虜となったトカゲ族の兵士は、およそ5万人です。先にお送りした文書にも書きましたように、そのトカゲ族の捕虜5万人と、ロマランで奴隷として囚われている人間族の市民4万人を交換したいと考えております。それについて、どのようにお考えですか」


 やや置いて、ゼーラス将軍が口を開いた。


「・・・おおむね了承する」


 俺は驚いた。トカゲ族のことだから、間違いなく無理難題を吹っかけてくると思っていたからだ。ところが意外なことに、最初から極めて前向きな回答をしてきたのである。さらにゼーラス将軍は続けた。


「ただし条件がある。私に協力して欲しいのだ」


 俺は不思議に思った。


「それは内容次第ですが、協力とは、どのようなものですか」


「私は、ジャビ帝国が人間族の奴隷を使って帝国を豊かにする時代は終わったと考えている。これからは、人間族の国々と平和条約を結び、そのうえで人間族の国々が有している優れた技術を我々に提供してもらいたいと考えているのだ。そして、その技術を使ってトカゲ族が自分たちの手で帝国を豊かにしようと考えている。」


 これは予想もしなかった話である。本気でジャビ帝国は人間と和平を結ぶ気なのだろうか。俺は尋ねた。


「それは、ゼーラス将軍殿の個人的な考えなのですか、それとも、ジャビ帝国の公式の考え、皇帝陛下のお考えなのですか?」


 ゼーラスは少し間を置いてから言った。


「うむ。いまのところ皇帝陛下はそのようなお考えではない。だから、これはあくまでも私の個人的な考えだ。だが、いずれ皇帝陛下にもわかっていただけるはずだ。今回、わが帝国のアルカナ王国遠征が屈辱的な大敗北に終わったことが、その契機きっかけになると考えている。もし帝国と人間の王国が和平を結ぶ時には、貴殿に人間族とトカゲ族の間を取り持っていただきたいのだ」


「もちろん、喜んで協力させていただきます。しかし、ということは、帝国の捕虜とロマランの市民奴隷の交換を、ジャビ帝国皇帝の了承なしに行うということですか。それはゼーラス将軍にとって、かなり危険な賭けになるのではないですか」


「その通りだ。もし皇帝陛下がお考えを変えられないのであれば、私は更迭されるだけでは済まないかもしれない。だが、そうしたリスクを犯しても、今後のためにアルフレッド殿と信頼関係を築いておきたいのだ」


 ゼーラス将軍は本気のようだ。しかし、俺は不思議に思った。


「それは願ってもない、ありがたいお話ですが、なぜそこまで私に期待されるのですか」


「私はロマラン総督として着任して以来、ずっとアルカナ王国とアルフレッド陛下を調べていたのです。その結果、貴殿が非常に優れた能力とバランスの取れた良識を持ち合わせており、部下からも信頼され、国家が順調に発展し続けていることを知りました。そして、我々のような異種族も受け入れる寛容の心を持っておられることも理解し、信用できる人物であると判断したのです」


 そしてゼーラス将軍は、俺の後ろに控えていたザクとゾクに目を向けた。


「その証拠に、あちらに我らの同族がアルカナ王国の一員として同席しておられるではないですか。感情に流されるだけの統治者なら、仇敵であるトカゲ族など仲間に加えるはずがありません。彼らも、きっとアルフレッド殿に惹かれているのでしょう」


 ザクが照れ臭そうに頭を掻きながら言った。


「そ、その通りですなんです、ゼーラス将軍閣下。アルフレッド陛下はすばらしい国王です」


 ゾクがザクの肩を指で突きながら言った。


「イシシ、でも本当はこいつ、女の尻を追いかけてくっついて来ただけなんですぜ」 


「うわ、うるせえ、この馬鹿野郎、変なこと言うんじゃねえ」


 テントは笑いに包まれ、和んだ空気が流れた。


 俺は言った。


「ゼーラス将軍殿のお考えはよくわかりました。私もその考えに強く賛同いたします。我々人間族とトカゲ族は殺し合いの歴史を捨てて和睦し、共存共栄を図るべきです。トカゲ族の繁栄のために力をお貸しいたしましょう。そのためにも、まずはジャビ帝国との間に平和条約を結ぶことを皇帝陛下にご進言ください」


「わかりました。全力を尽くすつもりです」


 捕虜と奴隷の交換が無事に約束された。そしてこの日から二週間後より、この国境付近の草原において、毎日2000名ずつ、双方の捕虜と奴隷の交換が順次行われることになったのである。


 それにしても、トカゲ族の中にゼーラス将軍のような軍人がいるとは思いもよらなかった。これはジャビ帝国との戦いを終わらせるためのチャンスになるかもしれない。俺はとても興奮していた。


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